BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏
新たにスタートします新シリーズ。
題名を「廃棄物処理法そもそも話」としてみました。
今までも何年かにわたり大栄環境のコラムを執筆してきたのですが、装いも新たに「初めて廃棄物処理に関係する」という方々を対象に「そもそも、なんで、こんなルールになっている?」という視点で廃棄物処理を眺めてみることにしました。
以前からお付き合いのある読者の方々、日ごろから廃棄物処理に携わっている方々は「その話は前に聞いたよ」ということも多いかと思いますが、まぁ、古典落語を聞くようなおおらかな気持ちで、しばらくお付き合い頂ければと思います。
さて、何から書こうかと思ったのですが、なんと言っても「廃棄物処理法」ですから「廃棄物そのもの」の話かと書き始めたところ、これがなかなか難しい。
現在は「物が廃棄物か有価物かは総合判断説」という相当の応用問題から入らなくてはならないことに気がつきました。
いずれは、この総合判断説も取り上げたいと思いますが、いろんなことを棚に上げて、まずはザクッと日本の廃棄物事情から取り上げてみようかと。
皆さんは、日本全国で一年間にどの程度の廃棄物が排出されていると思いますか?
そもそも、「廃棄物とは?」「排出とは?」ということは棚に上げて(^o^))
産業廃棄物は約4億トン、一般廃棄物は4千万トンです。
(そもそも、「産業廃棄物とは?」「一般廃棄物とは?」ということは棚に上げて(^o^)。近いうち取り上げますので、しばらく大目に見て下さい。)
出典:環境省 報道発表資料「産業廃棄物の排出・処理状況等(令和2年度実績)
環境省は毎年統計結果を出しているのですが、執筆時点で最も新しいデータは令和2年度実績で、産業廃棄物3億7,382万トン、一般廃棄物(ごみ)総排出量 4,095万トンです。
でも、まぁ、「産廃は約4億トン、一廃は4千万トン」、いわゆる有効数字1桁で十分なんです。
ちなみに、産業廃棄物を略して産廃(さんぱい)、一般廃棄物を略して一廃(いっぱい)と呼称しています。
なぜ、1桁で十分なのかは後ほどお話しすることとして、そもそも「産廃は約4億トン、一廃は4千万トン」と言われてもピンときませんよね。そこで、これを人口1億人として、国民一人当たり割返すと産廃は年間一人4トン、一廃は400キログラム、つまり産廃は4トンダンプ1台分、一廃は軽トラ1台分になる。このくらいの量の廃棄物が排出されているんです。どうですか?少しは実感していただいていますか?
「こんなに出てるの?」と感じましたか。それとも「これしか出ていないの?」と思いましたか?毎週ゴミステーションにゴミ袋を持って行っている方なら、「まぁ、そんなところかな」と思われたかも知れませんね。
さて、それでは先ほど後回しにした「有効数字1桁で十分」という話をしましょう。
そもそも、「廃棄物の排出時点とは」ということが一つの要素です。
たとえば、汚水が発生する工場では独自の水処理施設を持っているところも多いのですが、こういった水処理施設からは水を浄化する際には必ず「汚泥」が出てきます。
濁った水を静置しておくと上には澄んだ水、下には濁った水になりますよね。その濁った水は水分が多いので脱水すると濁り分が「脱水汚泥」となりますね。
この「脱水」という行為自体が既に「処理」である、と捉えると、脱水機に入れる前の水分ダフダフの状態が「汚泥の発生量」となるんです。
だから、ちょっと水分が違っただけで「発生量」は大きく違ってしまいます。
もうちょっと、実感しやすい例も示しておきましょうか。
たとえば、1トンの大鋸屑(おがくず)が要らなくなったので積み重ねていた。運悪く雨が降ってきて大鋸屑が濡れてしまった。さて、大鋸屑は1トンのままでしょうか?
これでおわかりになっていただけたと思うのですが、廃棄物の排出量はどの時点で、どういう状態で測るかによって大きく変わってしまうのです。
ましてや「産廃4億トン」の内訳としては「汚泥」もあれば「木くず」「金属くず」「コンクリートくず」もあります。これらを全部合わせてって話ですから、そんなに細かな数字を出してみたところで、あまり意味は無いんです。
皆さんの日常生活でも、靴の大きさを24.5センチとか25.0センチとかまではこだわると思いますが「オレの靴の大きさは24.38672センチで無いとダメだ」と言う人は居ませんよね。これで共感していただけたかと思うのですが、私の経験的な感覚としては廃棄物の統計的な数字は「有効数字1桁」、こだわっても「2桁」程度かなぁってところです。
廃棄物処理法の規定の中には次の規定があります。(設置許可が必要な処理施設の条項です)
五 廃油の焼却施設であつて、次のいずれかに該当するもの
イ 一日当たりの処理能力が一立方メートルを超えるもの
ロ 一時間当たりの処理能力が二百キログラム以上のもの
ハ 火格子面積が二平方メートル以上のもの
私も小学校で「国語」と「算数」は勉強したので「超えるもの」と「以上のもの」の違いは知っています。これこだわる人いるんですよねぇ。平成10年前後のダイオキシン騒動の時は裁判沙汰にもなった事例もありますから「どうでもいい」とまでは言いませんが、現実的には「超える」でも「以上」でも同じ事だと思いませんか。だって、面積を図ったところ「2.001平方メートルだからアウト」「1.9998平方メートルだからセーフ」を議論して意味があるのか。許可が要らないって主張したいのな
らせめて1割減の「1.8平方メートル」程度にしていてよって思いませんか。
条文も条文ですよね。同じ「廃油の焼却炉の基準」でイは「超えるもの」、ロハは「以上のもの」なんてしちゃうからこだわりたくなるんですよね。
まぁ、そんなこんながある廃棄物処理法ですから、私のこのコラムも「有効数字1桁」的なおおらかな感じでお付き合いいただけたら幸いです。
(2024年08月)