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廃棄物処理施設

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

 「初めて廃棄物処理に関係する」という方々を対象に「そもそも、なんで、こんなルールになっている?」という視点で廃棄物処理を眺めてみるという、おおらかな感じでお付き合いいただきたいコラムです。
 ここまで、「廃棄物の区分」「処理業許可」「排出者の責務」について、お話ししてきました。今回は、ちょっと視点が変わりますが、廃棄物処理については必須の「処理施設」について取り上げたいと思います。
 一旦排出された廃棄物は、何もしなければいつまで経っても「そのまま」です。
 えっ、いずれは腐って無くなるものもある?って。でも、それは、自然の力の腐敗、発酵、酸化、拡散、希釈といった「変化」なんですね。昔々は、この「自然の力」だけで、ほとんど害無く地球に返っていきました。ところが、日本では戦後の高度経済成長の時代になると、人が増え、産業が活発になり、大量生産、大量消費、新たな物質の発明により「自然の力」だけでは、元に戻れない「量」と「質」になってしまったんです。
 大量の汚泥により河川はドブ川となり、海ではヘドロが海岸線を埋め尽くす。腐らず、適度な柔軟性もある便利なプラスチックは腐らないがためにいつまでも残ってしまう。「夢の素材」と言われたPCBやトリクロロエチレン、PFOSなどに有害性が見つかる。
 そこで、人の力を使って、安全に、安定した性状に、そして極力少なくして地球に返す必要が出てきた。
 それを行うための施設が「廃棄物の処理施設」なんですね。
 具体的には第3回の「処理業」の時に述べた「物理的、化学的、生物学的な方法により、無害化、安全化、安定化」を行う施設、それが「処理施設」になる訳です。
 一昔、二昔前まで、これを効率的に行う処理施設は「焼却炉」でした。たとえば血の付いた脱脂綿が病院から排出されたとしましょう。血が付いていることにより感染性のリスクがありますし、時間が経てば腐っていって悪臭やハエが発生するでしょう。これを焼却し灰にすることにより、病原菌は滅菌され、腐敗物は無くなり、嵩張っていた脱脂綿は灰になり何十分の一という量に変わります。
 私は現在でも、この「焼却」という処理方法は「無害化、安全化、安定化」を短時間で行える、極めて優秀な「廃棄物の処理」であると思っていますが、残念なことに「焼却」は二酸化炭素が発生してしまいます。地球温暖化の原因となるCO2です。そのため、必ずしも焼却しなくとも「無害化、安全化、安定化」ができる廃棄物については、別の処理方法が採用されるようになってきました。
 その最たるものが、「再生」です。
 「再生」は、廃棄物を原料として、有価物を製造する手法です。具体的にはコンクリート殻を細かく砕いて砂利代わりに使う。動植物性残渣を原料として発酵させて飼肥料にして使う。「廃棄物が存在しなくなる」という趣旨では最終処分の一つの方法です。ただ、100パーセント再生というケースはなかなかありませんし、それを行う行為自体にエネルギーが大量に必要であり、結果としてかえってCO2を発生してしまうということもあります。

廃棄物処理施設

 もちろん、煙もくもく、悪臭プンプン、汚水垂れ流ししながら、リサイクルやっているからいいんだ、などとはけしてなりません。忘れてならないのは、なんのための廃棄物処理法、「廃棄物の処理」なんだと言うことです。廃棄物処理法の目的は「公衆衛生の確保」です。
 廃棄物の処理施設も実はここまで話したことと同じ事なんですね。
 廃棄物をそのままにしておく訳にはいかない。効率的に「無害化、安全化、安定化」しなければならない。しかし、それを達成するまでに環境被害を出していたのでは本末転倒。
 廃棄物の処理施設には、当然ながら、処理する廃棄物が集まってきます。第3回でも述べたとおり、廃棄物は潜在的にリスクを背負っているものです。それが集まるわけですので、どうしても環境被害が発生しやすくなります。
 そこで、その環境被害を極力出さないように、現在では設置にあたり許可制を採っています。
 「許可」は第3回で述べたとおり「禁止行為の解除」でしたね。だから、原則的には処理施設を設置することは禁止したわけです。しかし、今回述べたとおり、太古の昔から人はなんらかの「処理」をしてきました。捨てたり、燃やしたり、埋めたり、流したりです。これを一律禁止するわけにもいかない。
 そこで、処理施設設置については「裾切り」を設定しました。
 たとえば、木くずの破砕施設なら、「1日あたりの処理能力が5トンを超えるもの」が設置許可の対象です。この規定の仕方は3つのポイントがあります。
 まず、対象物。「木くず」が対象ですから、「紙くず」や「動植物性残さ」の破砕施設はいくら規模が大きくても対象外です。
 次に「処理方法」。「破砕」施設が対象ですから、選別施設や梱包施設は対象外。
 そして、「能力」。「5トン/日超」が対象ですから、3トンや4トンは対象外です。
 (なお、裾切りが無い処理施設もあります。たとえば、最終処分場(埋立地)はいくら小さくとも設置許可の対象です。)
 このような設置許可の対象となる施設を法律第15条を受けた政令第7条で具体的に19種類を規定しています。
 一方、一般廃棄物処理施設はし尿処理施設、焼却施設、最終処分場以外は具体的な例示は無く、全て「1日あたりの処理能力が5トン以上」の施設は該当します。
 ちなみに、産業廃棄物処理施設には「動植物性残さ」を対象とした施設はありません。そのため、動植物性残さ(残飯類等)を堆肥化する「5トン/日以上」の施設は、産業廃棄物を対象とする場合は設置許可不要ですが、レストランや旅館などから排出される「食品残渣」(事業系一般廃棄物でしたよね。第6回参照)を対象とするときは設置許可が必要になるという、ちょっと違和感、齟齬感が出てくる規定となっています。
 処理施設設置にあたり、いろんな課題はあるのですが、廃棄物処理法以外の法令もハードルが高くなる場合があります。
 その一つが、建築基準法の「位置の決定」です。これは都市計画等により用途毎に設置してよい施設が決められているのですが、廃棄物処理施設は周囲に与える影響(あくまでも「影響」であり、一概に「害」とは言えません。処理施設が近くにあった方が便利な工場などもありますから)も大きいことから、また、以降に近隣に建設される施設にも関わることから、審議会で審議していただく必要が出てきます。
 もう一つが、今も話した「周囲に与える影響」、すなわち環境アセスです。廃棄物処理施設全てがアセス法の対象では無いのですが(対象になるのは一定規模以上の最終処分場)、多くの自治体で「アセス条例」を制定していて、焼却炉などは対象になるときが多いようです。もし、建設予定地に天然記念物のイヌワシなどが飛んでいたら、それだけで計画は中断になる場合も出てきます。
 ただ、なんといっても廃棄物処理施設は必要な施設です。循環型社会、リサイクルを推し進めるには必須の施設です。これがなければ、廃棄物は排出した状態のままになる訳ですから。
 そんな訳で、廃棄物処理施設は今後とも注目されていく存在だと思っています。

廃棄物処理施設

(2025年05月)

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