BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏
「初めて廃棄物処理に関係する」という方々を対象に「そもそも、なんで、こんなルールになっている?」という視点で廃棄物処理を眺めてみるという、おおらかな感じでお付き合いいただきたいコラムです。
「廃棄物の区分」「処理業許可」「排出者の責務」「処理施設」について、お話ししてきました。今回は、ちょっと視点が変わりますが、廃棄物処理法に関わり世間が一番注目した「不法投棄」「不適正処理」について取り上げたいと思います。
まず、廃棄物処理法の規定を見てみましょう。
(投棄禁止)
第十六条 何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。
この法律条文には関連する政省令がありません。たったこれだけの条文です。今の廃棄物処理法では一番短い条文です。
しかし、たったこれだけの条文なのですが、不法投棄で立件するためには3つ要素が必要だと言われています。それは「みだり」なのか、「廃棄物」なのか、「捨てて」いるのかの3要素です。
まず、「みだり」ですが、「みだり」とは「社会通念上許容できない状況」ということで、まぁ、ざっくばらんに言えば「社会常識から外れている」「社会のルール違反」といったところでしょう。
「みなさんはごみを捨てていませんか?」こんなことを聞くと、「真面目に廃棄物処理法に向き合って勉強している我々になんてことを言うんだ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。でも、みんな、ごみは捨てているんです。「ごみ箱にごみを捨てる」と言うでしょ。でも、不法投棄では捕まりませんよね。それは「ごみ箱にごみを捨てる」という行為は社会のルールに従ってやっていることです。したがって、「みだり」ではない。よって、不法投棄罪は成立しない、となります。
次に捨てている「物」は「廃棄物」なのか?です。これは第4回、第5回で述べたとおり現在では総合判断説により判断することになります。ときおり、頭がおかしい人間が現れて、本当かなぁと思うニュースが流れることがありますよね。「今日、大阪の御堂筋の横断歩道の上から現金がばら撒かれました」とか。さて、この「現金を捨てた人間」、不法投棄罪で捕まると思いますか?軽犯罪法違反等で捕まるかもしれませんが、廃棄物処理法違反としては捕まりませんね。なぜか?捨てた物が「現金」。明らかに廃棄物ではない。よって、不法投棄罪は成立しない、となります。
3つ目の要因として「捨てているのか」です。「捨てる」の典型的な状況としては、解体で出てきたコンクリート殻などをダンプに積んで、山の中まで運んでいき、ガードレールの上から谷底にぶん投げる、これなんかは典型的な「捨てる」ですね。ただ、近年は司法も環境犯罪に厳しくなってきており、自分の土地であっても、穴を掘って埋めていた、これを「捨てる」と解釈して不法投棄罪が成立した事例もあります。現在では「処理のあてなく無期限に放置する」この状態は「捨てている」と解釈することが多いですね。「土地」は今の日本では私有財産かもしれませんが、未来永劫続いていく「存在」ですから、現在の所有者が何をやっても良い、というものではないんですね。現在は私有財産であっても、それは人間、未来の子孫も含めて全人類の共有財産でもあるんです。
まぁ、これが不法投棄罪成立の3要素となり、これを指導、監視、取締を行う行政や警察もそれなりの勉強をして対応はしてきているんです。
次に、不法投棄、不適正処理事案の対応として、頭を悩ますのが「原状回復」です。前述の通り、「不法投棄は犯罪」です。だから、警察は犯人を捕まえて、裁判の結果、有罪になれば牢屋にも入ります。(不法投棄罪の最高刑は懲役5年(令和7年6月1日以降に行われた犯罪については拘禁5年)です)でも、犯人が捕まったからと言って、捨てた物が片付く(これを「原状回復」と呼びます)とは限りません。
では、一旦捨てられた廃棄物は誰が片付けるべきでしょうか?
優先順位が一番の人間は明白ですよね。それは捨てた張本人、すなわち不法投棄の犯人です。
ところが、現実問題として、残念なことに不法投棄って、大抵の場合、犯人が捕まる位の時点では犯人は金を持っていないんです。捨てた直後はあぶく銭を持っていたのかも知れませんが、不法投棄をやらかすような人物ですから、捕まるまでの間に競輪競馬でスッカラカン、とか、初めからバックに暴力団が居て、全部吸い上げられた等、いろんな事情があるのでしょうけど、不思議なことに不法投棄の犯人って金を持ってないんです。どうですか?皆さん、大金持ちが不法投棄で捕まったってあまり聞かないでしょ。そのため、犯人が「不法投棄したオレが悪かった。片付けたいのはやまやまだ。でも、金が無くて片付けられないんですよ」となってしまう。
では、次、優先順位が2番目の人ってだれでしょう?もちろん、共犯者なんていう存在は犯人と同じですよ。共犯者を除けば、優先順位2番は「排出者」でしょうね。理屈は次のようなものです。「あなたが犯人に処理を頼んだから不法投棄は起きたんでしょ。あなたが頼まなければ不法投棄は起きなかったんですよ」、もっと、極端なたてまえとしては「あなたが廃棄物を出したから不法投棄は起きたんでしょ。あなたが廃棄物を出さなければ不法投棄は起きなかった。廃棄物を出したあなたが悪い」という理屈ですね。「それはちょっと言いすぎでは無いか」と思った人も居るかもしれません。でも、次の優先順位3番、4番目を考えてみると「無理からぬ事」と感じてもらえると思います。
不法投棄が起きました。犯人は捕まりましたが金が無くて片付けられません。排出者も同様です。さて、誰が片付けますか?優先順位3番は「その土地の所有者」、4番目は行政(国、県や市町村)となるでしょ。
となると、土地の所有者は不法投棄事件の被害者ですし、行政が片付けるということは税金使って片付ける、すなわち、その不法投棄には何の関係も無い人の金を使って片付けるってことになる訳です。
被害者や無関係者に負担させる前に優先順位が高い人がいるでしょ。それは誰か?それは「排出者」だってことなんですね。
ですので、原状回復を命ずる「措置命令」(産業廃棄物なら法律第19条の5)は、やった張本人、共犯者はもちろんながら、その原因となった廃棄物を排出した人物(排出事業者)も命令の対象になるという規定なんです。
過去の苦い経験から、現在では極力、このような不幸な事態にならないような「予防措置」が条文になっています。それが、委託契約書、マニフェスト(産業廃棄物管理票)、現地確認の推奨(委託状況の確認)といった諸々の委託基準なんです。
行政は大きな事態にならないよう、立入検査、報告徴収等により情報の把握に努めていますし、処理基準違反があれば行政指導や改善命令、措置命令等で対応しています。
警察も一生懸命やってくれていると思っています。
ちなみに、一年間に廃棄物処理法違反で捕まっている(検挙)人の数ってどの程度だと思いますか?
日本全国、1年間となると数人ということは無いかぁ?数十人?数百人?
とんでもない。毎年毎年、約5000人、これ程の人が廃棄物処理法違反で検挙されているんです。
※出典 令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について 警察庁生活安全局生活経済対策管理官
⇒ https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/seikeikan/R04_nenpou.pdf
ときおり、「産廃を出す度になんでこんな手間暇掛けているんだ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、こんな事情もあるのかぁとご理解頂けると幸いです。
(2025年06月)