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廃棄物処理のこれから

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

 「初めて廃棄物処理に関係する」という方々を対象に「そもそも、なんで、こんなルールになっている?」という視点で廃棄物処理を眺めてみるという、おおらかな感じでお付き合いいただいてきたコラムです。
 ここまで、日本における廃棄物の概要、廃棄物処理の現状、廃棄物処理法の基礎知識について、お話ししてきました。今回はこのシリーズ「そもそも話」の最終回として、私が思う、感じている「廃棄物処理のこれから」を述べてみたいと思います。あくまでも「私が思う」ですので、株価予想のように当たらない可能性も「大」ですのでご容赦の程。
 廃棄物処理法がスタートして半世紀が経ちました。スタート当時の日本は高度経済成長のまっただ中で公害問題に悩まされていました。私の捉え方としては「液体」は水質汚濁防止法、「気体」は大気汚染防止法、そして「固体」は廃棄物処理法が担当し、なんとか「公害問題」を克服しようという時代。水質と大気は程なくして「落ち着いた」と思います。ところが、廃棄物についてはその後も「大量不法投棄」「有害物の不適正処理」が続きました。廃棄物そのものへの不安と廃棄物処理について不信感が高まりました。岩手青森県境や豊島の不法投棄事件もこの時期です。さらに、それまで「万能」と思われていた「焼却」という処理方法も「ダイオキシン問題」が起き、信頼が揺らいだ時期です。
 これらに対応するために廃棄物処理法は何回も改正を行い、基準は厳しく、違反については厳罰化という道を辿りました。それを担う人材の育成も急務で環境省は自治体職員を対象とした高度な研修(「産廃アカデミー」等)を開始しました。排出事業者側も環境問題の高まりに伴って専門の部署を創設し、担当者の育成に努力なさってきたと感じます。
 平成20年代に入り、各所における前述の取組、努力が功を奏してきて廃棄物処理法に関連する大事件は少なくなりました。(けして「皆無」とは言いません。この業界では有名な「ダイコー事件」等はときおり起きていますから)
 このような流れで見た時に、今後の廃棄物処理はどのような方向に行くのか?いくつか考えられることがあります。
 一つ目は、前述のように昭和から平成に掛けて頻発した大事件対応のために設定したルールが「劇薬」なのではないか、ということです。症状が重ければある程度の副作用覚悟で劇薬投与もやむを得ない。しかし、症状が治まったら、以降は穏やかな、慢性病に効果のある「漢方薬」に切り替える必要があるのでは無いか、ということです。
 二つ目は、全世界的な課題である「地球温暖化」と「資源循環」です。現在では誰もが唱えることですが、地球を子孫に残すためには温暖化を食い止め、限りある資源を極力有効に活用していくことがあらゆる分野で求められます。廃棄物の処理は、「地球温暖化」と「資源循環」ともに直結する分野です。
 しかし、廃棄物処理法の目的は「生活環境の保全」と「公衆衛生の向上」です。
 「資源循環」に重点を置いて、全てのルールを「漢方薬」に置き換えたときに、再び、昭和や平成前半のような状況に戻らないとは限りません。
 結局、「症状の悪化」に備えて、「劇薬」は準備(そのままに)しておいて、緩和して大丈夫と思われる部分には「漢方薬」で対処するしかないのでしょう。
 具体的には、既に21世紀初め頃から行われている各種リサイクル法等の「許可不要制度」の拡充です。廃棄物処理法における「許可不要制度」は、廃棄物処理法がスタートした昭和45年の時点で既にいくつかありました。たとえば、許可条文(一般廃棄物なら第7条、産業廃棄物なら第14条)には「ただし書」が最初から付いています。「廃棄物を処理する時は許可が要る。ただし、自ら処理、専ら再生、省令で規定する場合は許可不要」というものです。第2回で述べたとおり「自ら処理」は、これはもう「業」の3要素の「不特定多数」「営利目的」が当てはまりませんから当然でしょうけど、「専ら再生」は許可不要というのは先見の明がありましたね。ところが、当時から、なんでもかんでも「再生だ」と主張すれば許可が不要というのでは廃棄物の処理を許可制にした意味が無くなりますので、通知により「古紙、くず鉄、空きビン類、古繊維」の4品目に限定という運用になってしまっています。これについては、いくつか裁判もありましたが国は半世紀に亘りこの運用を変えていません。(直近では令和2年3月30日付けの通称「許可事務通知」)。省令規定の許可不要は昭和45年の時点では一般廃棄物は「市町村委託」と「浄化槽汚泥関連(これは現在は廃止)」の2つ、産業廃棄物は他法令(海洋汚染防止法)との重複規制を避けるためと思われる1つだけでした。この許可不要制度は、前述の通り各種リサイクル法はじめ、その後どんどん増えていき今や下図のようになっています。

廃棄物処理のこれから

<出典 長岡文明「廃棄物処理法、許可不要制度」TAC出版,2023>

 さらに、令和6年には「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律」が成立し、令和7年中には施行されます。
 執筆時点では法律のみ成立し、政省令はまだ示されていないため、まだまだ不明な点も多いのですが、この法律ではさらに、新たな3つの許可不要制度「高度再資源化認定」「高度分離・回収認定」「再資源化工程高度化認定」の創設があり、この認定を受ければ処理業許可や処理施設の設置許可を不要とする制度のようです。もちろん、認定の審査は通常の許可の審査よりも高度な厳格なものになると思われますが、第3回、第8回、第10回で述べたように各自治体毎に許可を取得することは大変な労力です。それが一度の認定を受けることにより不要となるメリットは大きいと思われます。
 このように、各種の許可不要制度は、廃棄物処理法の原理原則的な厳しくなった各種規定を、「まずは大丈夫」と考えられる分野に限定し、それを緩和し、廃棄物処理法とは異なった目的である「地球温暖化防止」と「資源循環」を達成しようとしていると考えられます。
 人間が生きていく限りは、必ず廃棄物は発生しますし、性状的にも変えられない廃棄物(うんち、おしっこ等)も存在します。ということは廃棄物のリスクも継続していきます。そのため、今までのルールを全て緩和することは得策ではありません。それに対応する処理施設も必要です。一方で新たな目的達成のために緩和しなければならないルールも出てきます。その手綱さばきは今後益々重要になってくると感じます。
 かつては夢の素材と言われた「プラスチック」「PCB」「有機塩素系溶剤」等々も科学の知見が進み、処理困難な厄介者となった歴史もあります。
 「地球温暖化」防止に有効な太陽光パネルも、あと数年、10数年経つと大量廃棄の時代がくると言われています。
 新製品を開発するときには、それを廃棄するときのことも考慮して設計しなければならないことを、プラ資源循環法や再資源高度化法では謳っているようです。実はこのことは既に40年前の廃棄物処理法改正で規定しているんです。(第3条第2項、昭和62年通知。)
 そもそも、廃棄物処理法の目的は「生活環境の保全」と「公衆衛生の向上」であり、「地球温暖化防止」と「資源循環」と相容れないものではなく、広い意味では同じ事ではないかと思っています。
 12回に亘ってお付き合いいただいた「廃棄物処理そもそも話」はここで終了となりますが、今後とも廃棄物の話が聞こえてきましたら「そもそも、どうしてこんなルールになっているんだっけ?」「そもそも、今まではどうしていたんだっけ?」等々考えていただけたら幸いです。
 シーユーアゲインBUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/

(2025年07月)

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