BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏
「初めて廃棄物処理に関係する」という方々を対象に「そもそも、なんで、こんなルールになっている?」という視点で廃棄物処理を眺めてみるという、おおらかな感じでお付き合いいただきたいコラムです。
これまで「廃棄物処理の概要」、「廃棄物処理業許可制度」、「廃棄物とは」の話をさせていただきました。
今回から「廃棄物の区分」に入りたいと思います。
ここからは、いろんな先生方がいろんな本やテキストで述べている内容なので、「知ってるよ」「聞いてるよ」という方も多いと思いますが、法令の基礎知識ですので、「人と違ったこと」を書くわけにもいきません。まぁ、古典落語を聞くつもりでお付き合いください。
廃棄物処理法では廃棄物の区分を次のようにしています。
世の中の物体はまず「有価物」と「廃棄物」に分かれます。
厳密に言いますと、「廃棄物処理法」というのは日本の法律、ルールですから「世の中」は「日本では」と言った方が正解なのかも知れません。
前回述べましたが実は「廃棄物」という概念は、歴史的にも固定された概念では無いと感じますし(少なくとも戦前までの日本では「廃棄物」という概念は無かったと思われます)、世界的にはむしろ日本での「廃棄物」という存在にピッタリくる概念は少ないと思います。「不要物」「毒物」「有害物」といった概念かなぁと。だから、国際ルールである「バーゼル条約」で規制の対象にしている「物」は、廃棄物処理法の「廃棄物」そのものではありません。
次に、「世の中の物体は」と書きましたが、廃棄物処理法上、廃棄物処理法の対象から外している「物」があります。前回も紹介しましたが条文を見ておきましょう。
廃棄物処理法の第2条では次のように定義しています。
(定義)
第二条 この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。
このように「固形状又は液状のもの」とありますから、「気体」は除かれます。さらに括弧書きで「放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く」ですから「放射性物質」も対象外です。ただ、これについては、3.11東日本大震災以降、極微量の放射性物質については廃棄物処理法の対象としてきている経緯もあります。
ただ、こんな厳密な、例外的なことにこだわってると話は進みませんので、まずはザックリと「気体は対象外」と覚えておかれてもいいかと思います。
「有価物」か「廃棄物」かの判断は、前回お話ししたように、現在では総合判断説5つの要素による、ということでしたね。なお、総合判断説については機会があれば別の機会に改めて取り上げたいと思います。(それを待てない、という方は大栄環境メルマガのバックナンバーや拙著「対話で学ぶ廃棄物処理法」の第三章「定説・妄説」などを参照して下さいね)
さて、「物」は「廃棄物」だとしましょう。次の分岐は「一般廃棄物」か「産業廃棄物」かです。
この区分は、廃棄物処理法により誕生した区分であり、廃棄物処理法の前身である清掃法の時代まではありませんでした。
廃棄物処理法を作った当時の厚生省の担当者の方々の昔話によれば、当初は「事業活動を伴って排出される廃棄物は全て産業廃棄物」と想定したらしいです。
その上で、「産業廃棄物は排出事業者の責任」という理念で制度を組み立てたらしいのですが、当時の社会では、中小零細企業は自分たちが出す廃棄物を自分たちで処理する受け皿を確保することが出来ないという現実に直面した。具体的にはラーメン屋さんから出てくる客の食べ残しとか八百屋さんの売れ残り、床屋さんが刈ったお客の髪の毛ですね。それに、こういった廃棄物はそれまでの清掃法の時代では市町村が面倒見て上げていた。それを突然「明日からは自分たちで処理してね」では中小零細企業はやっていけない。そこで、量・質ともに市町村の処理施設で対処可能な廃棄物については、引き続き市町村で受け入れられるように「一般廃棄物」としたとのことのようです。
これを「事業活動が伴って排出されていても一般廃棄物」という趣旨で「事業系一般廃棄物」と呼ぶようになりました。
一方、「事業活動が伴なわずに排出」される典型的な形態は「家庭生活」です。したがって、家庭生活から排出される廃棄物は、何が出てきてもこれは「一般廃棄物」となり、法令上は一義的には市町村に処理責任がある、とされています。
ところが、この理念、概念、ルールはその後困った事態を生じさせています。
と言うのは、「量・質ともに市町村の処理施設で対処可能な廃棄物については、引き続き市町村で受け入れられるように「一般廃棄物」とした」のですが、逆のパターン、すなわち「家庭生活から排出されるが物理的に市町村の処理施設で対処困難」な廃棄物が色々と出現してきたのです。
身近な物としては「家電」「消火器」「自家用車」等々。たしかに「家庭生活から排出される物」ではありますが、これらを全て市町村が処理することには無理があります。
本来であれば、廃棄物処理法を大改正して「一般廃棄物」「産業廃棄物」の区分を根底から作りかえればよかったのかもしれませんが、これが顕著になってきた昭和の終わりから平成の初め頃は、それどころではない事態が日本を包み込んでいました。大量不法投棄や有害物の不適正処理です。加えて、廃棄物処理法スタートから20年ほど経過し、世の中の体制が「一般廃棄物」と「産業廃棄物」という区分で出来上がってしまい、それを根底から作りかえることは派生してくる影響が大きすぎてできなかったのかもしれません。
そこで、「一般廃棄物」「産業廃棄物」の区分はそのままに、色々な例外規定を作り、「一般廃棄物ではあるが市町村の処理体系から外す」というパッチワーク的な手法が採られるようになります。
それが、「適正処理困難物」の理念であったり、各種の「許可不要制度」「各種リサイクル法」の誕生に繋がります。
まぁ、こういった話も機会があれば改めて取り上げたいと思います。(それを待てない、という方は大栄環境メルマガのバックナンバーや拙著「廃棄物処理法、いつ出来たこの制度」や「廃棄物処理法、許可不要制度」などを参照して下さいね)
「廃棄物の区分」としては、さらに平成3年の大改正により「特別管理」という概念のもと、「特別管理一般廃棄物」「特別管理産業廃棄物」が出てきますが、それは後の回で取り上げることにしましょう。
(2024年12月)