BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏
「初めて廃棄物処理に関係する」という方々を対象に「そもそも、なんで、こんなルールになっている?」という視点で廃棄物処理を眺めてみるという、おおらかな感じでお付き合いいただきたいコラムです。
ここまで、「廃棄物の区分」や「処理業許可」について、お話ししてきました。ようやく、ほとんどの人に関係すると思われます「排出者の責務」について取り上げたいと思います。
まず、結論を述べますが、産業廃棄物の排出事業者の責務を列記すれば以下の7点となります。
1 処理基準を守ること(法第 12 条第 1 項,法第 12 条の 2 第 1 項)
2 処理責任者を置くこと(一定の条件に該当する事業場では)(法第 12 条第 8 項)
3 帳簿を備えること(一定の条件に該当する事業場では)(法第 12 条第 13 項,法第 12 条の 2 第 14 項)
4 処理計画を策定しそれを報告すること(一定の条件に該当する事業場では)
(法第 12 条第 9 項,法第 12 条の 2 第 10 項)
5 委託基準を守ること(法第 12 条第 6 項,法第 12 条の 2 第 6 項)
6 マニフェストを正しく使用しなければならないこと(法第 12 条の 3 第 1 項)
7委託処理状況を確認すること(法第 12 条第 7 項,法第 12 条の 2 第 7 項)
では、一般廃棄物の排出者の責務はどんなことが規定されているでしょうか。まぁ、いろいろ規定はあるのですが、罰則がある規定は一つだけです。
「事業系一般廃棄物を委託する時は許可業者に委託しなさい。」言葉を変えれば「無許可業者に頼んではダメですよ」という事項だけです。
なぜ、これほど一般廃棄物と産業廃棄物の規定が違っているのか?それは、第5回で述べたとおり、そもそも、「一般廃棄物の統括的処理責任は市町村にある」、「市町村は一般廃棄物排出者の集合体」という理念が廃棄物処理法にはあるからのようです。
市町村という自治体は悪いことをするはずが無い、法令違反をするはずが無い、という性善説が根幹にあるようですね。(現実にはそうとばかりも言えない事案もときおり有るようですが(;^_^A)
悪いことをするはずが無い市町村が排出者なのだから、細かな規定は不要だろう、ということなのかもしれませんね。そのため、一般廃棄物の排出者の責務規定は少ないのだと思います。
さて、それでは産業廃棄物の排出事業者の責務を見ていきましょう。ちなみに、産業廃棄物の定義として「事業活動を伴って」という形容詞が付きますから、産業廃棄物の排出者は必ず「排出事業者」になります。
ちなみに、ちなみに、廃棄物処理法では次の規定があります。
(産業廃棄物処理業)
第十四条
12 第一項の許可を受けた者(以下「産業廃棄物収集運搬業者」という。)又は第六項の許可を受けた者(以下「産業廃棄物処分業者」という。)は、産業廃棄物処理基準に従い、産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を行わなければならない。
一般廃棄物については、同様の規定が第7条第12項にあるのですが、これでおわかりのとおり「業者」というのは「処理業の許可業者」なんですね。許可を受けていない人物は「業者」とは呼びません。
一方、排出事業者の方は「事業者」なんです。「事業者」には、条文によっては「製造者」「販売者」という主旨で使用されている条項もありますが、廃棄物処理法を読むときは「事業者」は排出事業者であり、「業者」は受入先となる「許可業者」と捉えると分かり易いと思います。
「それじゃ、無許可業者はなんと呼ぶ?」という疑問も出ると思います。これは報告徴収や措置命令の条文で登場します。
(報告の徴収)
第十八条 都道府県知事又は市町村長は、この法律の施行に必要な限度において、事業者、一般廃棄物若しくは産業廃棄物又はこれらであることの疑いのある物の収集、運搬又は処分を業とする者、・・・以下省略
と、このように「収集、運搬又は処分を業とする者」と表現しているんですね。これを単に「業者」と書いてしまうと、報告徴収の対象になるのは「許可業者」に限定されてしまうからなんです。だから一般的には「無許可業者」と呼ぶ人物は、廃棄物処理法では「許可を取らずに業とする者」と言わなくてはならないんですね。まぁ、誰もそんな風には呼びませんけどね。
ときおり「業者」という文言に抵抗を感じるのか、「処理許可業者」を「事業者」と書いたり、話したりする方がいますが、誤解の元です。排出側が「事業者」、受入側が「業者」という文言を使用した方がよろしいのではないかと感じています。
閑話休題。
産業廃棄物の排出事業者の責務に戻りましょう。
産業廃棄物排出事業者の責務は、廃棄物処理法では第12条で、タイトルは「事業者の処理」です。
なので、産業廃棄物の排出者は第12条だけでも読んでいただきたいのですが、このコラムをご覧になっている方で第12条を読んでみたって人は何人いますか?
私は廃棄物処理法を担当したとき第12条を30分ほどで読みました。
「すごい!!」と思ってくれた方いましたか?
この第12条、令和版の三段法令集では50頁以上あります。法令集50頁を30分で読めるはずは無いですよね。実は、私が初めて廃棄物処理法を読んだのは、昭和55年。今から40年以上前になりますか。この時の第12条はたった1頁しかなかったのです。
頁数にして50倍。(◎o◎)!
廃棄物処理法は幾度となく改正がなされ、その度毎に条文は増えていったのですが、これ程肥大化した条文はありません。言葉を変えれば、産業廃棄物の排出事業者の責務は40年間で50倍になった、と言えるかも知れません。
その50頁に及ぶ「産業廃棄物排出事業者の責務」ですが、見出しを拾うと前述の7つです。
廃棄物処理法、特に産業廃棄物に関わっている方なら「委託契約書」や「マニフェスト(管理票)」という文言をお聞きになったこともあるかと思います。
「委託契約書」については、5 委託基準を守ること(法第 12 条第 6 項,法第 12 条の 2 第 6 項)、
「マニフェスト(管理票)」については、6 マニフェストを正しく使用しなければならないこと(法第 12 条の 3 第 1 項)で規定されている事項ですが、これらの詳細な話は、シーズン2以降としましょう。
(シーズン2があるかは不明です(^o^)。待ちきれない方は大栄環境メルマガのバックナンバーや拙著「土日で入門、廃棄物処理法」等を参照下さい)
(2025年04月)