2024年通常国会において、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温暖化対策推進法)の改正法案が審議中です(2024年5月10日時点)。
本欄でも紹介しているように、今国会に提出されている環境関連法案には、「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案」、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案」(水素社会推進法)及び「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案」(CCS事業法)がありますが、いずれも脱炭素(カーボンニュートラル/ネットゼロ)に関連したものです。
そうした中で、脱炭素の中心的な法律である温暖化対策推進法も改正されることになり、改めて脱炭素への大きな政策拡充の動きを感じざるをえません。
本法の概要は、次の図表の通りです。
改正温暖化対策推進法の概要
法律名「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律」 | |
JCMの実施体制強化 |
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地域脱炭素化促進事業制度の拡充 |
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ライフサイクルに着目した日常生活の温室効果ガス削減の促進 |
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●国際的な削減スキームを整備
改正法の1つ目のポイントは、JCM制度を拡充することです。
JCMとは「二国間クレジット制度」のことです。日本政府が、途上国等に優れた脱炭素技術やインフラ等の普及促進を支援することにより、日本及びパートナー国双方のNDC(「国の削減貢献」と訳され、国連に提出している国別目標などを指す)達成に貢献する制度です。
脱炭素を目指すために国内における温室効果削減等の取組みが最重要であることは言うまでもありませんが、それとともに、国際的な連携も不可欠です。
政府が定めた地球温暖化対策計画では、2030年度までに累積1億トン程度の国際的な排出削減・吸収量の確保を目指しています。
現在、日本政府は、29カ国をJCMパートナー国として、250件以上の事業を実施しています。これら事業で得られる排出削減・吸収量については日本の排出削減・吸収量として活用できるので、今回の法改正ではこれをさらに拡充しようというわけです。
具体的には、JCMのクレジット発行、口座簿の管理等に関する主務大臣の手続等を定め、現在、政府や複数の事業者が分担し実施しているJCM運営業務を統合します。
また、主務大臣に代わり、JCMクレジットの発行や管理を行うことができる指定法人制度を創設します。
●地域の脱炭素化を促進
2つ目のポイントは、地域脱炭素化促進事業制度を拡充することです。
地域脱炭素化促進事業制度とは、本法に基づき、市町村が、再生可能エネルギーの促進区域や再エネ事業に求める環境保全・地域貢献の取組を自らの計画に位置づけ、適合する事業計画を認定する仕組みです。
再エネ促進区域とは、地方公共団体実行計画において定められる、地域共生型の再エネ導入等を促進する区域のことです。
改正法では、この仕組みを改め、市町村のみが定めることができる再生可能エネルギーの促進区域等について、都道府県及び市町村が共同して定めることができるようにします。また、複数の市町村にまたがる地域脱炭素化促進事業計画の認定については、都道府県が行うことにします。
さらに許認可手続のワンストップ化特例について、対象となる手続を新たに追加し、制度のより一層の拡大を目指しています。
●ライフサイクルに着目した削減の促進
3つ目のポイントは、日常生活の温室効果ガス排出削減を促進するため、ライフサイクル全体で排出量が少ない製品等の選択やライフスタイル転換を国民に促す規定を設けることです。
具体的には、本法第24条等について、次の赤字を加えようとしています。
第24条 事業者は、国民が日常生活において利用する製品又は役務(以下「日常生活用製品等」という。)の製造、輸入若しくは販売又は提供(以下「製造等」という。)を行うに当たっては、その利用並びに資材及び原材料の調達、製造、輸入、販売又は提供、廃棄その他の取扱い(以下「利用等」という。)に伴う温室効果ガスの排出の量がより少ないものの製造等を行うとともに、当該日常生活用製品等の利用等に伴う温室効果ガスの排出に関する正確かつ適切な情報の提供を行うよう努めなければならない。※第2項略
この条文は、日常生活用製品等のメーカーや販売事業者等に対して、温室効果ガス排出量の少ないものの製造等やその情報提供を求める規定です。
従来は国民が「利用」する際の排出量減少に着目していたものの、製品・サービスのライフサイクル全体における排出量にも視野を広げ、それらも対象とした排出削減をした製品等やその情報提供を求めたわけです。
本条文は努力義務規定ではあるものの、メーカーや販売事業者等に対して、改めてより一層の脱炭素に向けた取り組みを求めた改正です。
以上の①~③いずれも、最近の法改正と同様に、いわゆる規制強化の法改正ではありません。しかし、ESG投資が投資の主要な要素の一つになるに至り、社会の脱炭素化が共通認識となる中、脱炭素化への事業者の更なる努力を求める法改正と言えるでしょう。
◎「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について」(環境省)
⇒ https://www.env.go.jp/press/press_02855.html
(2024年06月)