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PFOS等を含む消火器等が設置している事業所は何をすべきか?

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

 商業施設を多数持つ企業を訪問し、自社に適用される法令の名称が記載されたリストを拝見していたところ、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)がありました。

 化審法は、原則として、化学物質を製造・輸入する企業に適用される法律です。
 商業施設であれば、少量の化学物質を取扱うことはありますが、化学物質を製造・輸入することは考えづらいので、記載している意図を聞いてみると、次のようなご返事がありました。

 「いま、PFOS(ピーフォス)などが注目されていますよね? いくつかの商業施設で、PFOS等を含有する泡消火設備がまだあり、順次、PFOS等を含まない設備に切り替えています。その取組みの法的な根拠として、化審法を掲載しています。」

 「それはいい取組みですね。」

 「ただ、ちょっと気になっていることがあります。化審法のどこを読んでも、私たちのように、PFOS等を製造・輸入せずに、消火設備を設置だけをしている企業への規制が書かれていないように思いますが、どうなんでしょうか?」

 実は、こうしたご質問を時折いただくことがあります。
 読者の皆さんはどのように考えますか?

 化審法における消火器等の取扱い等の義務をまとめると、次の図表の通りです。

化審法における消火器等の取扱い等の義務

●取扱い基準適合義務(化審法28条2項)
許可製造業者、業として第一種特定化学物質又は政令で定める製品で第一種特定化学物質が使用されているもの(以下「第一種特定化学物質等」という。)を使用する者その他の業として第一種特定化学物質等を取り扱う者(以下「第一種特定化学物質等取扱事業者」という。)は、第一種特定化学物質等を取り扱う場合においては、主務省令で定める技術上の基準に従つてしなければならない。
  • ●業として(下記の消防庁通知参照)
    消防機関、消防用設備等の点検事業者など(事業所に消火器等を設置する事業者は該当しない)
  • ●政令で定める製品(化審法施行令附則3項)
    「PFOS又はその塩」「PFOA又はその塩」「PFHxS若しくはその異性体又はこれらの塩」の「消火器、消火器用消火薬剤及び泡消火薬剤」
  • ●取扱いの技術上の基準(平成22年9月3日総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省令第1号)
●表示義務(化審法29条2項)
第一種特定化学物質等取扱事業者は、第一種特定化学物質等を譲渡し、又は提供するときは、厚生労働省令、経済産業省令、環境省令で定めるところにより、前項の規定により告示されたところに従つて表示をしなければならない。
  • ●表示すべき事項(平成23年3月31日厚生労働省、経済産業省、環境省告示第6号)
●取扱いの基準適合義務・表示義務違反(化審法第30条)
第一種特定化学物質等取扱事業者が違反した場合、主務大臣等による改善命令表示命令あり
●改善命令・表示命令違反(化審法59条)
6カ月以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科
■<参考>消防庁の関連通知(平成22年9月3日消防消第215号、消防予第385号、消防危第191号、消防特第168号)
「業として取り扱う者が取扱事業者であり、省令の対象となる取扱事業者には、消防機関、消防用設備等の点検事業者、石油コンビナートの自衛防災組織、危険物を取り扱う石油精製事業者(泡消火設備の法定点検を専門に行っている事業者と同様の点検を行っているものに限る。)、自衛隊及び空港に配置される消防隊等が該当します。なお、駐車場に泡消火設備を設置している防火対象物の関係者(所有者、占有者又は管理者)は、火災時の使用に備えて当該設備を常備しているだけであるため、取扱事業者に該当せず、省令に基づく義務は発生しません。」

 冒頭で述べた通り、化審法の主な義務の対象者は、化学物質を製造・輸入する者です。
 新規に化学物質を製造・輸入する場合、市場に流通させる前に事前審査が義務付けられています。

 また、審査後も、化学物質の環境リスクに応じて様々な規制が適用されます。
 例えば、PCB(ポリ塩化ビフェニル)のように、極めて有害な化学物質については、第一種特定化学物質として製造・輸入が原則禁止されています。
 一般化学物質の場合は、製造・輸入量が年1トン以上の場合は届出が義務付けられています。

 今回の事例で取り上げたPFOSは、第一種特定化学物質です。

 PFOSは、有機フッ素化合物の一種で、1万種以上あると言われるPFAS(ピーファス)の一つであり、近年、発がん性などが指摘され、社会的な関心が高く、急速に規制が強化されています。最近では、PFOSに加えて、PFOA(ピーフォア)などのPFAS関連物質も続々追加されています(詳しくは、「「PFOS」「PFOA」規制とは?」参照。)。

 さて、第一種特定化学物質に追加されたPFOS等については、前述の通り、原則的には製造・輸入が禁止されるものの、取扱いそのものが禁止されているわけではありません。
 実際、冒頭の事例の通り、PFOS等を含有する泡消火設備や消火器が設置されており、災害時に使用することもできます。

 とはいえ、安易な管理によりPFOS等を含む薬剤が漏えいすれば、環境汚染につながることになりかねません。
 そこで、化審法では、PFOS等を含む消火器、消火器用消火薬剤、泡消火薬剤を「業として」取扱う事業者に対して、「技術上の基準」に適合することを義務付けています。
 同時に、厚生労働省令等の告示に基づく表示をすることも義務付けています。

 基準適合義務や表示義務に違反した場合、改善命令等の対象となり、命令違反の場合には6カ月以下の懲役や50万円以下の罰金等の罰則もあります。

 今回のポイントは、業として取扱う事業者の中に、事業所にPFOS等を含む消火器等を単に設置している事業者も含まれてくるかどうかです。

 この点につき、例えば、一般社団法人日本消火器工業会ウェブサイトでは、「消防機関や自衛防災組織、自衛隊又は空港に配置される消防隊、及び点検事業者が該当します。」「一般的に消火器を設置しているだけでは規制対象者とはなりません。」と記載しています。
 消防庁の通知でも、上記図表の最後に示した一文があります。

 以上の通り、法令上は、今回のケースのように、単にPFOS等を含む消火器等を設置している事業者は規制対象外と位置付けているのです。

 しかしながら、だからと言って、化審法の製造・輸入禁止物質を含む消火器等をいつまでも事業所に置いておき、災害時には「やむをえない」からと使用することが社会的に許容されるかどうかは、社会的な存在である企業としては、やはり別問題と言わざるをえません。

 冒頭の企業のように、直接的な規制対象ではないとしても積極的に消火器等の代替に努める責務を自覚し、まもるべき規範として対応すべきでしょう。

参考文献
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
※本書は、本連載の記事を改訂・追加し、再構成したものです。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html

(2024年11月)

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