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条例の対応を現場に丸投げしない

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

 全国各地に複数の工場がある企業の本社を訪問したときのことです。
 環境法に関する各工場の法規制一覧表を確認したところ、国の法令を記載した箇所については特段の問題を感じなかったものの、自治体の条例等を記載した箇所について課題があることに気づきました。一部の工場の一覧表に記載されるべき事項が無かったからです。

 「A工場とB工場は別々の県にありますが、どちらの県でも条例で共通に定めている規制があります。しかし、A工場の一覧表にはその規制が載っているのに、B工場の一覧表には載っていませんね。法令調査はどのようにやっているのですか?」

 「国の法令については本社が一括で調査しています。法改正があれば、各工場の一覧表に反映させるよう指示しています。自治体の条例等については、改正を含めて、各工場に任せています。」

 「なるほど。例えば、B工場の県条例では○○の設備がある工場に対して届出や排水基準遵守を義務付けていますが、この設備はB工場にもありますよね。一覧表にはこの規制が記載されていませんが、B工場では対応していますか?」

 「本社ではわかりませんが、対応していない可能性がありますね...。」

 今回の事例のように、国の法令については本社が一括で調査し、自治体の条例等については各工場に調査を委ねている企業が少なくありません。
 条例の管理方法について決まったものはありません。これが一概に「悪い」とは思いませんが、抜け漏れを防ぐための工夫は必要です。

 条例の規制に適切に対応するための方法の例をまとめると、次の図表の通りとなります。

条例の管理方法の例

項目 実施事項 コメント
法規制一覧表 ①国の法令とともに、自治体の条例等についても全社で一括して調べる。 ■左記の①②いずれの方法でもよい。各工場に対応のすべてを委ねない仕組みが重要。
②国の法令は本社、自治体の条例等は各工場で調べるが、工場での調査が適切か本社等が確認する。
実施者の力量 ・条例を含めた法規制一覧表を制作し、更新する担当者の力量を確保するための教育計画を策定し、実施する。 ■条例を担当する者の力量確保のための教育も組み込む。
チェック ①定期的に、本社が、条例の適用規制状況およびその遵守状況をチェックする ■社内等の第三者がチェックする手順を確保。
■ISO14001であれば、順守評価または内部監査の機会を活用する。
②定期的に、工場間で、工場担当者が別工場の条例遵守状況をチェックする。

 条例の管理方法は、基本的に国の法令の管理方法と同じであり、法令遵守のためのPDCAを回す必要があります。

 具体的には、まず、自工場への条例の適用規制を調べ、その概要を法規制一覧表にとりまとめます。その際、所在する都道府県と市町村それぞれの適用規制をしっかり調べる必要があります。

 最近では有料の条例データベースもあるので、それを利用してもいいでしょうし、そこまで行う必要がないと判断するのであれば、対象の都道府県と市町村のウェブサイトにアップされている例規集(条例集)で調べたり、直接自治体に照会をかけたりする方法が考えられます。

 その後、該当する条例の遵守を実施するとともに、定期的に遵守状況のチェックをすることになります。

 こうした条例管理のPDCAを回していく上で、それぞれの場面で工夫が必要となります。

 自工場への条例の適用規制の調べ方としては、①国の法令とともに、自治体の条例等についても全社で一括して調べる、②国の法令は本社、自治体の条例等は各工場で調べるが、工場での調査が適切か本社等が確認する―などが考えられます。
 いずれの方法でもよいと思いますが、各工場に対応のすべてを委ねない仕組みが重要です。

 条例を担当する者の力量確保のための教育計画をしっかり行うことも組み込むことも大切です。
 本社の法令担当者が外部セミナーを積極的に受講している一方で、条例を担当する工場担当者にはそうした機会を与えていない企業が少なくありません。そうした企業において条例違反があった場合、それは工場担当者の責任とは言い切れないでしょう。教育の仕組みがない組織の責任だと私は考えます。

 教育の方法は様々です。外部セミナーの受講だけでなく、自社の法規制一覧表をベースに、自治体のウェブサイトも活用した社内研修資料を作成し、社内で実施することも立派な教育の仕組みです。

 さらに、社内等の第三者が条例遵守状況を定期的にチェックする仕組みも求められます。
 具体的には、①定期的に、本社が、条例の適用規制状況およびその遵守状況をチェックする、②定期的に、工場間で、工場担当者が別工場の条例遵守状況をチェックする―などが考えられるでしょう。

 条例の規制の特定や運用、チェックのプロセスが形骸化している企業が少なくありませんが、「環境法」の一つの柱は「条例」です。抜け漏れのないように「仕組み」をつくり、運用することに心掛けるとよいでしょう。

参考文献
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html

(2025年09月)

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