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法令遵守のチェックをどのようにするか?

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

 ISO14001を認証取得する製造業を訪問し、環境法の遵守状況を確認したときのことです。
 この企業では、ISO14001の規格に沿って、法規制一覧表をまとめ、部署ごとに法令遵守に努めるとともに、半期に1回、順守評価をしています。また、それとは別に、年1回、内部監査においても遵守状況をチェックしていました。

 ところが、実際の遵守状況を確認してみると、空気圧縮機を追加で設置しているにも関わらず、騒音規制法の特定施設に該当するか否かのチェックが漏れていました。
 また、産業廃棄物の保管場では、保管基準を満たすような「囲い」がありませんでした。

 遵守状況のチェックの仕方を確認してみると、順守評価の実施者は、日頃、法令遵守に当たる社員と同一でした。
 内部監査では、順守評価を実施しているか否かを確認するにとどまり、個々の法規制への対応が適切か否かを確認していませんでした。内部監査員向けの教育プログラムには、環境法教育の項目もありませんでした。

 今回の事例のように、環境法の遵守状況のチェックが形骸化している例が少なくありません。ISO14001は、環境マネジメントシステム(EMS)の規格であり、法令遵守のしくみをつくる上で優れたものです。それが活かされていない事例と言えます。

 ISO14001には、法令遵守(ISOでは「順守義務」という)の要求事項が多岐に渡りますが、法令遵守状況のチェックに関する要求事項と対応方法をまとめると、次の図表の通りとなります。

ISO14001の法令遵守状況のチェックのしくみと対応方法の例

箇条 要求事項 対応方法の例
9.1.2
順守評価
 組織は,順守義務を満たしていることを評価するために必要なプロセスを確立し,実施し,維持しなければならない。
 組織は,次の事項を行わなければならない。
  • a) 順守を評価する頻度を決定する。
  • b) 順守を評価し,必要な場合には,処置をとる。
  • c) 順守状況に関する知識及び理解を維持する。
  •  組織は,順守評価の結果の証拠として,文書化した情報を保持しなければならない。
  • 法令遵守状況を定期的にチェックする手順をつくる。

  • 法令遵守の担当者がセルフチェックするのではなく、社内の第三者(環境部署等)がチェックする。

  • 順守評価を実施する者の力量を確保するため教育プログラムを整備する。

9.2
内部監査
9.2.1 一般
 組織は,環境マネジメントシステムが次の状況にあるか否かに関する情報を提供するために,あらかじめ定めた間隔で 内部監査を実施しなければならない。
 a) 次の事項に適合している。
  •  1) 環境マネジメントシステムに関して,組織自体が規定した要求事項
  •  2) この規格の要求事項
 b) 有効に実施され,維持されている。

9.2.2 内部監査プログラム
 組織は,内部監査の頻度,方法,責任,計画要求事項及び報告を含む,内部監査プログラムを確立し,実施し,維持しなければならない。 内部監査プログラムを確立するとき,組織は,関連するプロセスの環境上の重要性,組織に影響を及ぼす変更及び前回までの監査の結果を考慮に入れなければならない。
 組織は,次の事項を行わなければならない。
  • a) 各監査について,監査基準及び監査範囲を明確にする。
  • b) 監査プロセスの客観性及び公平性を確保するために,監査員を選定し,監査を実施する。
  • 内部監査において個々の法規制への対応状況についてチェックする(サンプリングでもよい)。順守評価の実施の有無のみのチェックで終わらせない。

  • 内部監査プログラムを策定する際には、今回の内部監査における重点監査事項の中に、法令遵守に関する項目を追加する。

  • 内部監査において法令遵守状況をチェックする者の力量を確保するため教育プログラムを整備する。

 ISO14001の基本的なしくみは、PDCAサイクルです。
 つまり、計画をつくり(Plan)、計画通り実施し(Do)、計画通り実施しているかをチェックし(Check)、これらのプロセスに課題があれば見直す(Act)というものです。

 法令遵守もこのPDCAサイクルに沿って行われます。
 自社に適用される環境法規制を参照できるように文書化し(PLAN。規格要求事項6.1.3)、それに基づき法令を遵守します(Do。規格要求事項8.1)。

 そして、法令が遵守されているかどうか、また、法令遵守のしくみに課題がないかどうかを確認するチェックのプロセスとして、ISO14001では、「順守評価」(規格要求事項9.1.2)と「内部監査」(規格要求事項9.2)の2つを用意しています。

 具体的には、「順守評価」において、定期的に法令遵守状況を評価し、課題があれば対応を促すことになっています。評価の結果を記録しなくてはなりません。
 さらに、「内部監査」において、この「順守評価」を含めて、EMS全体の活動が規格の要求事項に適合し、かつ、有効に運用されていることをチェックしなくてはなりません。

 ここで気づくべきことは、論理的には、「内部監査」という一つのプロセスによって法令遵守の取組みもチェックできるはずであるにもかかわらず、ISO14001は、法令遵守の取組みについては、「順守評価」と「内部監査」2つのプロセスを設けることにより、2段階でチェックすることを求めているということです。
 実際、最初のISO14001(1996年版)には「順守評価」のプロセスはなく、2004年版の改訂時に追加された要求事項です。

 実務的に言えば、法令遵守の取組みのチェックが形骸化しがちなものであることに鑑みると、この改訂は適切であったと思います。

 ところが、冒頭の事例のように、せっかく2重のチェックのしくみがあるのに、「順守評価」はセルフチェックで、かつ、「内部監査」で形式的なチェックに陥っている企業が少なからずあります。規格の意図としくみを踏まえていないと言わざるをえません。

 「順守評価」においては、法令遵守状況を定期的にチェックする手順をつくることはもちろんですが、法令遵守の担当者がセルフチェックするのではなく、社内の第三者(環境部署等)がチェックするのも一考です。また、「順守評価」を実施する者の力量を確保するため教育プログラムを整備することも重要です。

 「内部監査」においては、個々の法規制への対応状況についてチェックすべきです。もちろん、他の項目の監査と同様に、サンプリングによる監査でもよいかと思います。
 また、内部監査プログラムを策定する際には、今回の内部監査における重点監査事項の中に、法令遵守に関する項目を追加するとよいでしょう。そして、「順守評価」の実施者と同様に、内部監査において法令遵守状況をチェックする者の力量を確保するため教育プログラムを整備すべきでしょう。

 ある企業では、昨年は廃棄物処理法、今年は消防法の危険物規制などのように、毎年、法令に関する重点監査事項を変え、その都度、監査員にはその箇所を細かく監査させる方法をとっていました。限られたリソースの中で取組み事項を明確にする優れた対応だと思います。

 ISO14001の考え方やプロセスは、法令遵守を継続的に徹底する上で参考になる点が多くあります。その認証の有無にかかわらず、積極的に活用するとよいでしょう。

参考文献
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html

(2025年10月)

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