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消防法、危険物施設が無くても数量管理と取扱いに注意

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

 ある小規模な工場を訪問したところ、倉庫や製造現場などあちらこちらにペール缶や一斗缶が置いてありました。
 倉庫は整理整頓がされていたのものの、複数の製造現場において使用中または使用予定のペール缶などが多く置かれており、どうもしっかりと管理されていないように見受けられました。内容物を確認すると、トルエンなどもそれなりの量があり、心配になって聞いてみました。

 「引火点が低く、燃えやすいトルエンなどが結構あるようですね。数量管理はどのようにやっているのですか。」
 「倉庫で数量管理をやっていますよ。少量危険物に該当すると届出など、手続きが面倒なのでその量にはならないように気をつけています。」
 「なるほど。消防法の危険物規制を意識しているのですね。とてもいいと思います。ただ、製造現場も合計するとそれなりの危険物があるようですが、管理していますか?」
 「あ、いや、現場ではすぐに使用しますから。」
 「しかし、未開封のペール缶だけでも、それなりの量がありますから、一度調べてみましょう。」

 その後、調べてみたところ、第一種石油類に該当する原料がそれなりにあり、製造現場だけで少量危険物の量に達することがわかり、届出をしました。

 危険物の規制は、基本的に消防法において定められています。ただし、消防法のもとに、各地の地方自治体や消防組合で定める火災予防条例において、少量危険物や危険物一般の規制が定められているので、両方を読み込むことが必要です。
 こうした危険物規制を一覧化すると、次の図表の通りとなります。

危険物の規制

法令 指定数量 許可・届出 構造、設備の基準 貯蔵・取扱いの基準 筆者コメント
消防法 指定数量以上 許可 本文の通り、ハード・ソフト基準、保安体制の厳しい規制あり
火災予防条例 指定数量の1/5以上(指定数量未満) 届出 標識・掲示板、消火器、不燃材料、防火設備、不浸透の床、照明、換気などの基準あり。また、下の欄の規制も受ける
指定数量の1/5未満 火気使用制限、不要物を置かない、漏えい・飛散防止、適正な容器使用など

注記1:指定数量の例:ガソリン200ℓ以上、灯油1,000ℓ以上

注記2:自治体等ごとに火災予防条例は制定されているので、地域によって若干の違いはある。

 危険物について本法は、第1類~第6類に分けて品目を定めています。例えば、第4類(引火性液体)第1石油類として、ガソリンやトルエンなどを定めています。

 事業所において危険物を取り扱う場合、何よりもまず注目すべきは、その危険物の危険性に応じて定められている「指定数量」です。危険性の高い危険物は指定数量が小さく、危険性の低い危険物は指定数量が大きくなっています。指定数量の例は、上記の表にある通りです。

 指定数量以上の危険物を製造するとき、貯蔵するとき、取り扱うときには、危険物施設(製造所、貯蔵所、取扱所)として、その設置・変更については消防機関の許可が必要となります。

 危険物施設があると、①ハード基準として、位置(保安距離等)、構造(材質等)、設備(消火設備等)の基準、②ソフト基準として、貯蔵・取扱い規制(火気使用制限、立入制限、漏れ防止等)の基準、③保安体制として、危険物取扱者による取扱い、事業所規模等に応じた保安体制の整備(危険物保安統括管理者、危険物保安監督者、予防規程など)が求められます。

 また、貯蔵所以外での貯蔵は禁止され、製造所・貯蔵所・取扱所以外での取扱いは禁止されます。
 このように指定数量に達すると、厳しい規制措置が講じられています。

 指定数量に達していない場合でも、指定数量の1/5以上の量に達した危険物は「少量危険物」として、市町村などの火災予防条例により、あらかじめ届出が義務付けられています。
 標識・掲示板、消火器、不燃材料、防火設備、不浸透の床、照明、換気などの基準があります。ただし、火災予防条例は、市町村などごとに制定されるために、多少の違いはあるので注意してください。

 指定数量未満の危険物の貯蔵・取扱いの技術上の基準についても、火災予防条例で定められています。「指定数量未満の危険物」なので、少量危険物が入るのはもちろん、少量危険物に達しないすべての危険物の貯蔵・取扱いを規制しているので注意が必要です。
 具体的には、火気使用制限、不要物を置かない、漏えい・飛散防止、適正な容器使用などを定めています。

 このように指定数量に応じて段階的に規制が講じられているのが、消防法の規制手法と言えます。
 したがって、規制を受ける事業者サイドとしては、まずは何よりも指定数量に着目した管理をすることが求められます。

 冒頭の事例のように、ただ倉庫だけの数量管理をしていては本規制を遵守することができません。取扱う現場など、事業所内にある危険物すべてを射程に入れ、指定数量に着目した管理を実施すべきでしょう。

参考文献
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html

(2025年12月)

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