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「廃棄物処理法改正の動き」(第3回)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 今回は、2025年4月8日に開催された「第3回 廃棄物処理制度小員会」での審議状況をご紹介します。
 第3回小委員会の議題は「今後の巨大地震や集中豪雨等の発生に備えた災害廃棄物対策について」でした。
 第3回は、第2回と異なり、委員以外の人を対象とする意見ヒアリングがありませんでした。その分、委員と環境省との間で活発な質疑が行われるものと期待をしていましたが、委員の一部で持論や重複した質問を投げかける人がおり、第2回の時と同様に、座長から「手短に質問をお願いします!」と再三注意喚起が行われる状況となりました。「災害廃棄物対策」という1テーマだけでしたが、想定されるリスクや対策が膨大な範囲に及ぶ重要なものだけに、各委員の現状の問題点や改善点に対する思いが熱くほとばしった結果なのかもしれません。

 「今後の巨大地震や集中豪雨等の発生に備えた災害廃棄物対策」の議論を進めるために環境省が提示した論点は下記の5つでした。
  • ① 災害廃棄物処理計画・災害支援協定の制度化
  • ② 適正処理を前提とした災害廃棄物処理に係る特例制度の活用促進・拡充
  • ③ 廃棄物最終処分場での災害廃棄物の受入容量確保に係る特例制度の整備
  • ④ 廃棄物処理・公費解体を横断的に調整支援する専門支援機能の確立
  • ⑤ 巨大地震等に備えた損壊家屋等の解体や災害廃棄物処理の事務の円滑化方策の検討

 以下、個別の論点ごとに環境省が提示した「背景・現状」と「問題提起」を挙げ、それに対して委員から出た主な意見をご紹介していきます。

1. 災害廃棄物処理計画・災害支援協定の制度化
• 背景・現状:
  • ►災害廃棄物処理計画の策定率は、令和5年度末で都道府県は100%であったが、市町村の86%に止まっていた。
  • ►災害廃棄物処理計画の改定については、都道府県で約5割、市町村では約2割に止まっていた。
  • ►市町村で災害廃棄物処理計画の策定及び改定が進まない理由としては、「専門的知見の不足」「職員の不足」が大半であった。
  • ►災害廃棄物処理計画における水害の想定率は、都道府県で約4割、市区町村で約3割に止まっていた。
• 環境省からの問題提起:
  • ►「一般廃棄物処理計画」に「非常災害時の施策」を追加することを検討してはどうか。
  • ►民間事業者との災害支援協定締結の制度化を検討してはどうか。

 委員の多くから、「市町村のマンパワーには限界があるので、法定計画を拡充したとしても、単なる計画で終わってしまっては意味が無い」と現実的な課題に関する指摘がありました。環境省からは、「『D.Waste-Netの活用』の他、今後も支援を充実させていく」旨の回答がありました。

2. 適正処理を前提とした災害廃棄物処理に係る特例制度の活用促進・拡充
3. 廃棄物最終処分場での災害廃棄物の受入容量確保に係る特例制度の整備
• 背景・現状:

  • ►平成27年改正で追加された、災害廃棄物処理を目的とした廃棄物処理施設設置手続きの簡素化措置の活用が十分には進んでいない。

• 課題:

  • ►特例対象となる廃棄物処理施設が限定的。
  • ►非常災害時の判断基準が不明瞭で、非常災害とする判断に時間を要した。
  • ►再々委託されないかどうかの確認が必要だった。

環境省からの問題提起

  • ►適正処理を前提とした災害時の特例措置を拡充してはどうか。
  • ►特に、既存の民間施設の最大限活用するために、災害廃棄物の受入容量の事前確保・活用に関する制度化・支援措置等を検討してはどうか。

 委員からは特に異論は出ませんでしたが、筆者個人としては、災害廃棄物の円滑な処理に直結する部分ですので、次の廃棄物処理法改正で何らかの形で盛り込まれる可能性が高いテーマではないかと思いました。

4.廃棄物処理・公費解体を横断的に調整支援する専門支援機能の確立
• 現状:
  • ►能登半島地震では、「災害廃棄物処理支援員制度(人材バンク)」「災害廃棄物処理支援ネットワーク(D.Waste-Net)その他を活用し、全国から支援が行われた。
  • ►市町村の平時の体制は5割弱が5人以下であり、能登半島地震と同様、被災自治体のみで支援に対する各種調整・事務を行うことは困難であることが想定される。
• 課題:
  • ►被災自治体は、発災初期は対応に追われることから、他自治体からの支援を有効に活用できないことが多い
  • ►被災自治体には、災害廃棄物処理の経験や人材が不足していることがほとんどであるため、調整・連絡体制の構築・運営に多大な負荷がかかる。
• 環境省からの提案:
  • ►事業監理、人的支援、広域調整等の横断的支援を担う専門支援機能の確立に向けた制度化を検討してはどうか。

 委員からは特に異論が出ませんでした。
 廃棄物処理法改正に関係してくるかどうかはわかりませんが、これも災害廃棄物の円滑な処理に不可欠なテーマですので、これまでの知見を活用した制度化を図っていただきたいところです。

5.巨大地震等に備えた損壊家屋等の解体や災害廃棄物処理の事務の円滑化方策の検討
• 現状と課題:
  • ►被災地の迅速な復旧を図るため、市町村は災害等廃棄物処理事業費補助金を活用して全壊家屋等(特定非常災害では半壊以上の家屋等)の解体・撤去を実施できる。
  • ►一方、公費解体の実施においては、公費解体を担当する市町村廃棄物部局が普段従事している業務の内容と大きく異なる作業の実施が必要であり、また、公費解体の申請受付や解体工事の発注作業等に多くの人員が必要となる。
  • ►巨大災害や大規模な集中豪雨等が発生した場合、多数の倒壊家屋を含む損壊家屋等の所有者・共有者の同意取得が長期間にわたり困難となる可能性があり、二次災害の発生防止や応急復旧等の観点から、損壊家屋等の緊急的な解体の迅速かつ円滑な実施が必要。
• 環境省からの提案:
  • ►公費解体やそれにより生じる解体廃棄物に係る事務の更なる円滑化を推進すべきではないか。

 委員からは特に異論が出ませんでした。
 これも災害廃棄物の円滑な処理に不可欠なテーマではありますが、廃棄物処理法とはあまり関わりが無い内容ですので、法改正とは無関係に、法務省その他の関係省庁と別途検討が進められていくものと思われます。

(つづく)
(2025年05月)

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