BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏
※この⼩説記事はフィクションであり、実在の⼈物、団体、事件等とは⼀切関係ありません。
主な登場人物
スカイパトロールで発見された不法投棄を地上から確認するために前田と大関が現場に行くと、ちょうど、プレハ小林の村井と齊藤が解体木くずを投棄しているところに出くわした。二人を支庁に連れてきて事情を聞き、後日、社長の小林を呼び出し事情を聞くこととなった。
当日、小林は神妙な顔つきでスーツを着てやって来た。聞き取りは長尾係長が担当し、記録係として柿崎主事、現場を知る前田技師、そして元警察官で不法投棄監視員の大関も控えている。
「お忙しいところ、ご足労いただきご苦労様です。廃棄物処理法を支庁で担当しています長尾です。こちらは前田、柿崎、大関です。早速ですが、改めてあなたの氏名、会社名等教えていただけますか」
「有限会社プレハ小林で代表取締役社長をやっています小林芳春です。この度はうちの村井と齊藤がとんでもないことをしてしまったようでどうもすみません」
「・・・おっ、これは全て部下の責任にするつもりかな?・・・」長尾は思いながら
「村井さんと齊藤さんは先日、『社長の指示だ』と言っていましたが、そうじゃないんですか」と聞いた。
「私は正規の許可業者へ持って行けよ、と指示していたんですけどねぇ。奴らはお客様からいただいた処理料金をネコババして私の土地に捨てていたみたいなんですよ」
「ほぉ、それは大変でしたねぇ」
「二人は昨日付で懲戒解雇にしました」
「・・・おっ、もう尻尾を切ったか。慣れてるなぁ。誰かバックでアドバイスしているかもしれないなぁ・・・」長尾は思いながらも
「そうですか。じゃ、二人の犯罪行為は警察に任せるしか無いかなぁ。大関さん、小林社長さんへ被害届の書き方を教えてあげて、後で一緒に警察に行って告発してきてください。」
「わかりました。今の直江署の畑山特法犯係長は元部下でしたから後で連絡しておきます」と間を置かず大関が応ずる。
「ちょっ、ちょっと待って下さい。私が二人を告発するんですか。」
「そうなんでしょ。小林社長は自分の土地に不法投棄された上に、本来自分の会社の収入になるはずだったお金を横領されたんでしょ。告発して当然じゃないですか」
小林の顔から赤みが消えて、脂汗が出てきている。自分が訴えたら、言い含めて一時的にしろ辞めて貰った元部下達も黙っていないだろう。結局全部ばれてしまう。
「いやいや、こんなことはあっても元部下として可愛がってきた二人を告発なんて・・・・」
「とりあえずは順を追って聞きましょうか」と話題をずらして長尾は聞き取りを続けた。
「あの土地の所有者は小林さん、個人の名義?」
「はい、あそこは昔から小林家のもので私も親父から相続した場所です」
「で、いつの頃からあんなふうに使い出したの?」
「爺さんの時代までは、あの辺に住んでいたんだけど過疎化が進みみんな町場に降りてきて、でも小屋は残っていたんだ。古い小屋でね。10年ほど前の大雪の時に押しつぶされて、春になって行ってみたら残骸があったんだよ。それで、どうせ古い木くずが積み重なっている状態なんで、仕事で出てきた木くずやコンクリート殻なんかをあそこで保管するようになったんだ」
「ふぅん、じゃ、もう数年前からあの場所に投棄していたんだね」
「投棄じゃねぇよ。保管だよ。小屋の残骸と一緒にいつかは片付けるつもりだったんだよ」
「ちゃんと片付けたことはあるの?正規の埋立業者や焼却炉に搬入した実績は?」
「あそこのはまだないけど、解体現場から直接正規の業者に搬入したことはあるよ。いつもはそうしているんだから。」
「ほぉ、村井と齊藤の二人には、その正規の業者に搬入するように・・・と指示していたんだね。そこんとこ間違いないね」長尾係長の口調はいつの間にか厳しいものに変わってきていて元社員の二人もいつのまにか呼び捨てになっている。
「ん~」小林はますます苦しそうに汗を出している。
「ん~、今回はどっちに持ってけって明確には指示していなかったかも」
「小林さん、マニフェストって知ってるかなぁ。解体工事をやっているんだったら知ってるよね」
「産廃を委託する時に必要な伝票紙だろ。知ってるよ」
「正規の業者に処理を頼むんだったらマニフェスト交付しているはずだよね。今回のあるかなぁ」
「ん~、今回の工事は急いでいたから、とりあえず小屋の跡地に持って行け、と指示したかも」
「ほぉ、元部下が勝手に不法投棄したんじゃなくて、社長であるあなたが指示したんだね」
「ん~、そうなるかなぁ」小林は渋々自分が指示したことを認めた。
「じゃ、ここまでのこと整理するよ」長尾が言うと、記録していた柿崎が読み上げた。
「今回投棄した場所は小林芳春名義の土地」
「指示したのは小林社長。実行したのは社員の村井と齊藤」
「投棄した物は解体工事から発生した木くずとコンクリート殻。ただし、今回の物については途中で制止されたことから現在はあの場所には無い」
「現在あの場所にあるのは、元々の小屋の残骸と別の工事から発生した木くずとコンクリート殻」
「ここまではいいかな」長尾が確認する。
「いいよ。オレの気持ちとしては『保管』であって、『投棄』じゃねぇんだけど、そっちがそう言うならそれでいいよ」小林は渋々認めた。
「じゃ、続きをきくよ」
「まだ終わんないのかよ」
「むしろ、これからが本番かな。今回の解体工事を始め、あの不法投棄の場所に捨ててあった木くず類が出てきた工事について教えて貰おうか。解体工事の日にちと解体現場の所在地、発注者、今日のところは小林さんの記憶にある範囲でいいよ」
「そんな細かいことは覚えていないよ」
「さすがに今回の工事について覚えているよね。まだ、数日前のことだもの。教えてくれる?」
「ん~・・・工事現場は隣町の川東町巣中地区の奥山純雄さんの住宅だったかな」
「で、工事の元請は誰かな」
「それは勘弁してくださいよ。チクったと思われて仕事切られちゃうよ」
「社長もこの仕事しているんだから知ってると思うけど、工事の対外的な責任は元請業者にあるんだよ。廃棄物処理法でもね建設系の廃棄物の排出事業者責任は元請だって規定している。だから、これを聞かないわけにはいかないなぁ」
「だんなぁ~、そこをなんとか・・・」
「しょうがないなぁ。じゃ、元請には、今回の不法投棄はパトロール中に発見して、こちらの独自の調査で判明したと伝えてやるから、正直に教えてね」
「そういうことであるなら・・・・。直江市に支社を置いてる筆豆ハウス建設だよ」
「ほぉ、筆豆建設か。大手ゼネコンじゃないか」
「筆豆ハウス建設は筆豆建設の子会社だけど有名だよね」小林はそんな有名な会社と我が社は取引があるということを自慢したい気持ちもあり複雑な表情をした。
小林も踏ん切りが付いたのか、その後は、特段の抵抗も示さず長尾の質問に答え、小一時間後にこの日の聞き取りは終了した。小林を帰した後、長尾たち支庁廃棄物対策係の打合せ会議を行っている。
「皆さん、お疲れ様。やはり、前田君と柿崎くんが土木部から調べてくれたとおりだったね」
実は先ほど小林から聞き取った事項の多くは既に、同じ支庁庁舎の3階にある県土木部建設課建築係から情報を取っていたのである。
「はい、ここ数週間の建設リサイクル法に基づく解体届出を調べるだけでしたし、建築係ではリスト作成していましたからすぐに判りました」前田が答える。
「不法投棄現場の土地登記簿は宇佐美さんに法務局に行ってもらって取って貰った。ここは小林名義で間違いないようだね」
「筆豆建設は、この地方では埋立は毎脚クリーン、焼却はバーン興業、リサイクルなら建里沙リサイクルに搬入しているようで、最近も実績がありました。ただし、プレハ小林の搬入実績はここ数ヶ月は無いようでした」大関が報告した。
「みんな、ありがとう。いよいよ、本丸の筆豆建設への調査になるねぇ。前田くん、大関さんと筆豆ハウス建設を訪問して、まずは軽く接触を図ってみてくれるかな」
許可申請、審査等の経常業務をかかえながら、不法投棄のような飛び込み事案にも対処していかなければならない。人手はいくらあっても足りない。
どうしたら、社会全体に効率よく廃棄物の適正処理を推進していけるのか、模索する長尾であった。
第一部 完
今回の確認
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