BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏
※この⼩説記事はフィクションであり、実在の⼈物、団体、事件等とは⼀切関係ありません。
主な登場人物
山崎が上杉県の出先機関の直江地方支庁環境課に来ている。
山崎はこの地方では中堅クラスの産業廃棄物処理業者、株式会社セントラルクリーンの専務であるとともに、上杉県産業廃棄物協会直江支部の役員もしている。
「支部の青年部で研修会企画しているんだけど、講師お願い出来ないかなぁ」
相手をしているのは新入職員の宇佐美菊子技師である。
「私が講師ですか」
「若手の勉強会なので実務に役に立つ話をして欲しいんですよ。失礼な話だけど、宇佐美さんは我々より廃棄物処理法について知らないでしょ」、山崎は遠慮会釈が無い。
「じゃ、砂糖部長の日程を確認してみます」「ちょっと待って。砂糖部長ってなんでもかんでも地球温暖化のことしか言わない人だよね。さっきも話したように実務で役に立つ、そうだなぁ、委託契約書とかマニフェストとかの話をして欲しいんだ」
宇佐美は先日砂糖部長が「最近は時間がたつのが早いんだよなぁ。これも地球温暖化のせいかなぁ」と話していたことを思い出し思わず心の中で「ごもっとも」とうなずいていた。
「じゃ、やっぱり長尾係長ですか」「できれば、そうしてもらえるかなぁ。係長は居る?」
長尾係長は年齢は三十代半ば、支庁環境課で廃棄物対策係長をしていて、山崎とは旧知の仲である。
「山崎さん、研修会やるの?」長尾が顔を見せた。
「係長、先日は本当に無許可業者の許可取り消したんだねぇ。」
「以前、山崎さんに『無許可業者の許可、取り消してみろ』って言われたからねぇ」
長尾は数週間前に係員の協力のもと、家庭からの不用品を一般廃棄物処理業の許可を持たずに扱っていた有限会社タケダ回収の産業廃棄物処理業の許可を取消処分を行っていた。
「いやぁ、係長さすがだよ。無許可業者に蔓延まれると、真面目に許可を取得してやってる我々が一番馬鹿を見るからねぇ。」山崎はこれから研修会講師を依頼しなければならないこともあってか、ちょっとおだて気味に長尾に伝えた。
「まぁ、係のみんなが頑張ってくれたからねぇ。ところで、研修会の内容としてはどんなことがいいの?」
「さっき、宇佐美さんにもお伝えしたんだけど、実務で役に立つ委託契約書とマニフェストの話でどうかなぁ」
「また、委託契約書とマニフェスト」長尾はもう何回もこのテーマで講話をしていることから、ちょっと食鳥気味なのである。
「お願いしますよ。受講者は若手で新人さんも多いからさぁ。どうしてもいつものテーマになっちゃうんですよ」
「わかったよ。廃棄物処理法を覚えてもらうことが適正処理の第一歩だからね」
「ところで、たとえば・・・」山崎が口にした。
・・・「おっ、いよいよ本題だな」長尾は直感した。
「たとえば、たとえばなんだけど、契約していない産業廃棄物を引き受けちゃった時ってどうしたらいいんだろうか?たとえば、だよ」
・・・「はっはぁ、あったな」長尾は心の中で思ったが何気ない顔で
「その産業廃棄物の種類で許可を取っているんだったら受託者の業者側は違反じゃ無いよ」長尾は答えた。それを聞いて山崎は一瞬ポカンとした表情でいたが、すぐに普段の表情に戻り「契約していない品目を扱ったんだよ。違反にならないの?」
「たとえば、金属くずの契約しかしていなかったけど、廃プラスチック類を引き受けちゃったってケースでしょ。この業者が金属くずも廃プラスチック類の許可も持っているのなら法令違反にはならないよ。」
「どうして?」山崎が怪訝そうに聞き返した。
「ちょうど良い機会だ。柿崎くん。山崎さんに解説してあげて」
係員で長尾の部下である法律を専攻してきた柿崎主事が後を引き継いで話し始めた。
「委託契約書は排出事業者の義務。受託者側の処理業者には委託契約書の義務は無い。だから、業者側は委託契約書どおりにやらなくても法令違反にはならないですよ」
「えぇぇ、それじゃ業者側はやりたい放題になっちゃうんじゃないですか」
「いいや、そうはなりません。受託者である処理業者は委託契約書という枠が無い代わりに『許可』という枠、足枷があるんです。正確に言うと『事業の範囲』ですね。」
「ほぉ、2年間でよくそこまで勉強したね。山崎さん。今度の研修会の講師は柿崎君でいいよね。」長尾が山崎に伝えた。
「そりゃもう。嫌も応もありませんよ」山崎はそう返事してそそくさと自分の会社に戻っていった。
会社に戻った山崎が早速電話している。
「阿部さん。委託契約書に無い種類の産業廃棄物を受託したとしても違反にはならないそうです。」阿部は食品メーカー株式会社縞馬屋直江工場の工場長である。縞馬屋と山崎の産廃処理会社セントラルクリーンとは先代から委託、受託契約を締結している昔からのお得意様である。
「山崎さん。私が聞きたかったのは、そちらの立場の話じゃないんですよ。排出事業者の立場として、廃棄物処理法上違反では無かったのか?ってことなんです」
「あっ!」山崎は思わず声に出してしまった。山崎が先ほど県支庁環境課で長尾係長へした質問は、実はお得意様である縞馬屋から「うちの名を出さずに聞いてきてくれ」と頼まれた事だったのである。
山崎は頭をかいた。「しょうがねぇなぁ。もう一度支庁環境課に行ってくるか」
<つづく>
今回の確認
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