BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏
※この⼩説記事はフィクションであり、実在の⼈物、団体、事件等とは⼀切関係ありません。
主な登場人物
「阿部工場長、やっぱり私は帰らせてくださいよ」
「山崎さん、何を今更・・・」
阿部は食品メーカー株式会社縞馬屋直江工場の工場長、山崎は縞馬屋とは長年の付き合いがある産業廃棄物処理業者、セントラルクリーンの専務取締役である。
二人は隣県の中間処理業者「エコアザリサイクル」の堆肥化センターに現地確認に来ている。もう一人同行しているのは縞馬屋で廃棄物処理法を担当している板垣朋恵。ただ、板垣の主たる業務は経理であり、廃棄物処理は誰もやらなかったので先輩から押しつけられた形での担当であった。
縞馬屋では昨今のコンプライアンス重視の流れであるにもかかわらず、産業廃棄物の委託契約やマニフェストの不備が目立つことから、「相互監視性」を導入したのであった。
これは昔からのしがらみから適正処理に踏み切れないという現状を打破するために試行的に行われるものであった。
支社や各工場で隣の支社、工場が委託している廃棄物処理業者について確認する、というものである。阿部は直江工場の工場長であるが、今日は隣県に所在している伊達工場が処理委託している「エコアザリサイクル」に現地確認に来たのである。
しかし、阿部も板垣も廃棄物処理法について素人同然。そこで、親しく取引をしているセントラルクリーンの山崎に同行を依頼したのである。
山崎は最初渋った。違う県であり、また、面識も無い業者であるものの、同業者の粗探しのようなことをしたくなかったのである。
そこで阿部は山崎を縞馬屋の主任ということにして名刺まで作成し、なんとしても同行してチェックして欲しいと懇願したのであった。
「山崎さん、どう?」
「どう?と言われても、今のところなんとも」
三人は案内してくれるエコアザリサイクルの黒田主任には聞こえないよう小声で話している。
「ここで受け入れた動植物性残渣を発酵させます」
・・・「山崎さん、山崎さん、ちょっと臭いような気がするんだけど・・・」
・・・「阿部さん、そういうことは率直に聞いてみてもいいんしゃないですか」
「あのぅ、ちょっと臭いがきついような気がするんですけど・・・」阿部はおそるおそる黒田に聞いた。
「お客さん。我々が扱っているのは廃棄物ですよ。臭くて当然ですよ。」
阿部は・・・「ふぅ~ん、当然なのか」妙に納得した。
しかし、山崎は・・・「んっ、これはちょっと」と疑念が湧いてきた。
そうこうしているところに、新たな搬入があった。
「あれ?今の軽トラに積んでいたのはレストラン、飲食店からの残飯では?」山崎が呟いた。
「そうですよ。」黒田が答えた。
山崎は現地確認に来る前に縞馬屋に行き板垣からエコアザリサイクルの許可取得状況を調べていた。エコアザリサイクルは産業廃棄物処理業の許可は得ているが、一般廃棄物処理業の許可は見あたらなかった。
「黒田さん、御社は一般廃棄物処理業の許可は?」
「一般廃棄物の許可は市町村でしょう。地元の伊達町は廃棄物への理解がなくてさぁ。いくら申請しようとしても申請書を受け取ってくれないんですよ。その代わり役場の担当者からは『許可は出さないけどやっていいよ』って言われているんですよ」黒田は答えた。
「阿部さん、阿部さん、もう帰りましょ」山崎は阿部にそっと告げた。
「チェック項目がまだまだ残っているよ」「もういいですよ。だいたいわかりましたから」
阿部と山崎、板垣は残ったチェック項目をそそくさと見て廻った。エコアザリサイクルの黒田はこれ幸いと口早におざなりな説明をして現地確認は終了となった。
翌日、山崎は縞馬屋直江工場の阿部を訪ねた。
阿部も心待ちにしていて、直ぐに面会ができた。
「山崎さん、昨日はご苦労様でした。旅費や謝金はちゃんと支払うから請求書提出してね。ところで、早速だけど本社にエコアザリサイクルの評価書を出さなくちゃいけないんだ。山崎さんから見てエコアザはどうかなぁ」
「阿部工場長、どうもこうも、ありゃダメですよ。同業者の陰口はききたくないけど、あの会社とはすぐ手を切った方が良いよ」
「そんなにダメなんですか?」同席していた担当者の板垣が聞いた。
「なんと言っても、無許可行為を堂々とやっていますからねぇ」
「あら、私は委託契約書やマニフェストは揃っていたから良い会社かと思ったんですが・・」
「委託契約書やマニフェストなんて書類は誰でも揃えられるし、やろうと思えば後付けでも出来ちゃうもんですよ。なんのために現地までわざわざ行って確認しているか考えてくださいよ。板垣さんも昨日現場行ったでしょ。何を感じました?」
「そうですねぇ。素人の私がまず感じたことは、臭かったことと散らかっていたことかなぁ」
「そういう素人の感覚って一番大事なんですよ。あの工場の近くに住んでいる人達は、あれを毎日嗅がされて、見させられている訳ですよ。」
「そうかぁ。今はなんと言ってもコンプライアンスの世の中で、一番強い力を持っているのは一般国民だからなぁ。一般国民の代表格が付近住民だとすると、付近住民の声、感覚は大事だよなぁ」阿部も納得した。
「それに法律的にはさっきも言ったけど無許可ですね」
「無許可って?エコアザは産業廃棄物の許可は持ってるんでしょ?うちにも許可証のコピーが届いていたし。だからこそ、うちの伊達工場では処理委託をしている訳だし」板垣が不思議そうに再度山崎に質問した。
「廃棄物処理法の処理業許可制度って言うのは一つじゃ無いんですよ。一般廃棄物と産業廃棄物で分かれていて、さらに収集運搬と処分に分かれている。エコアザは産業廃棄物の許可は取っているけど一般廃棄物の許可は下りていないんですよ。」山崎は昨日エコアザの担当者である黒田の口からもこのことは確認していた。
「でも、同じ食品残渣なんだから、許可なんて無くても処理はできるでしょ。」板垣はさらに問いただした。
「なにを言っているんですか。無許可は不法投棄と並んで廃棄物処理法では一番罰則が重いんですよ。委託者側の無許可業者委託も最高刑懲役5年なんですよ」
「えぇぇ」板垣は驚きの声を上げた。
「こりゃ、早急に本社に復命して、監査の方から伊達工場へ進言して貰うことにしよう。板垣さん、早急に復命書を作成してくれ。山崎さん、悪いが引き続きアドバイス頼むよ」
<つづく>
今回の確認
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