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二酸化炭素の排出量取引を義務化へ ~GX推進法・資源有効利用促進法の改正①

Author

環境コンサルタント
安達宏之 氏

 2025年2月25日、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)と資源有効利用促進法(資源の有効な利用の促進に関する法律)の改正法案が閣議決定されました。
 いずれの改正も「カーボンニュートラル(脱炭素)と経済の成長」(GX)を推進するための改正です。今号では、まずGX推進法の改正について解説します。

 GX推進法は、2023年に制定された法律です(「GX推進法とGX脱炭素電源法が成立! ~脱炭素の施策は何処へ?」参照)。制定当初から、国は本法で定める措置として、二酸化炭素の排出量取引を義務化することと、化石燃料賦課金を徴収することを掲げていましたが、今回の改正では、それらの具体的な措置を定めました。

 改正法案の概要は、次の図表の通りです。

改正GX推進法の概要

1 二酸化炭素の排出量取引の義務化 〇2026年度から、二酸化炭素排出量の多い事業者に対して排出量取引制度への参加を義務付ける
  • ※排出量取引:対象事業者ごとに二酸化炭素排出量の排出枠を定め、実際の排出量がその排出枠を超過した場合は、排出枠取引市場から排出枠を調達するというもの。逆に、自らの排出枠よりも削減した事業者は、その削減分の排出枠を市場で売却できる。
  • ※対象事業者:二酸化炭素の直接排出量が前年度までの3年間の平均で年10万トンの事業者(約300~400社となり、わが国の温室効果ガス排出量の60%程度をカバーと想定)

〇対象事業者は、まず年度平均排出量とともに、登録確認機関の確認を受けた排出目標量などの届出を行い、排出枠が割り当てられる。翌年度、対象事業者は排出量の実績を報告。実績量も登録確認機関の確認を受ける必要がある。また、その実績量と同じ量の排出枠を保有。
  • ➡◆排出量が多く、排出量が排出枠を超えた場合
    〇排出枠取引市場から排出枠を調達。対応しない場合、未履行分に上限価格の1.1倍の支払いを義務付け。
  • ➡◆排出削減が進み、余剰が生まれた場合
    〇市場にて排出枠を売却できる。繰越しもできる。

〇排出枠取引市場は、GX推進機構が運営。制度を安定的に運用するため、排出枠の上下限価格が設定され、価格高騰時には、事業者が一定価格を支払うことで償却したものとみなす措置なども定める。金融機関・商社等の対象事業者以外の参加もできる(条件付き)。
2 化石燃料賦課金の徴収の具体化 〇「化石燃料賦課金」:石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料の使用に伴って排出される二酸化炭素の排出量に応じて、化石燃料の輸入事業者に対して賦課される(税金のようなもの)。賦課金はガソリン代などに転嫁され、化石燃料の使用を抑える役割を担うことになる。

〇今回の改正では、2028年度から適用開始する化石燃料賦課金の執行のために必要な技術的事項を整備。
3 GX分野への財政支援 〇脱炭素成長型経済構造移行債の発行収入により、GX分野の物資の税額控除に伴う一般会計の減収を補填。

 今回の改正法の最大のポイントは、日本国政府として初めて二酸化炭素の排出量が多い事業者に対して排出量取引を義務付けたことです。

 排出量取引とは、事業者ごとに二酸化炭素排出量の「排出枠」を定め、実際の排出量がその排出枠を超えた場合は、排出枠取引市場からその分の排出枠を調達するというものです。
 逆に、排出量を削減し、排出枠よりも排出量が下回った事業者は、その削減分の排出枠を市場で売却することもできます。そうした排出枠の取引をすることにより、対象事業者全体として排出の削減を図ろうとするものです。

 改正法では、この排出量取引を2026年度から本格的にスタートさせようというのです。
 対象事業者を法律には定めていませんが、二酸化炭素の直接排出量が前年度までの3年間平均で「年10万トン以上」の事業者が対象となる予定です。

 対象事業者数は、全国で300~400社となると想定されています。これらの企業の温室効果ガス排出量は、わが国における排出量の60%近くとなるそうです。
 排出量の算定ルールは、省エネ法や温暖化対策推進法のルールを基礎に今後決められますが、基本的には、エネルギー起源二酸化炭素の排出量と非エネルギー起源二酸化炭素の排出量の合計から、J-クレジットやJCMクレジットなどのクレジット無効化量を引いた量となります。

 対象事業者は、まず届出を行い、排出枠が無償で割り当てられます。届出の際には、年度平均排出量とともに、登録確認機関の確認を受けた排出目標量などを提出することになります。

 排出枠の割当に際しては、経済産業大臣が実施指針を定め、産業分野別に割当量の算定方法を提示していきます。
 業種特性を考慮する必要性の高いエネルギー多消費分野を中心に、その業種における上位の排出基準となるように設定するベンチマーク方式などをベースに、過去の削減努力なども勘案して割当量が調整されることになります。

 翌年度、対象事業者は排出量の実績を報告します。実績量についても登録確認機関の確認を受ける必要があります。また、その実績量と同じ量の排出枠を保有することになります。

 実際の排出量が排出枠を超えた事業者には、排出枠取引市場から排出枠を調達することが求められます。対応しない事業者に対しては、未履行分に上限価格の1.1倍の支払いが義務付けられています。
 また、排出削減が進み、余剰が生まれた事業者は、市場にて排出枠を売却することができます。繰越しもできます。

 排出枠取引市場は、GX推進機構により運営されます。制度を安定的に運用するため、排出枠の上下限価格が設定され、価格高騰時には、事業者が一定価格を支払うことで償却したものとみなす措置なども定めています。

 改正法の施行は2026年4月となる予定です。2026年度は、対象事業者が自社の排出量等を算定することになります。その後、2027年度に排出枠の割当が実施されます。排出枠取引市場の開設は、2027年秋頃になる見込みです。

 このように、排出量取引は、排出量の多い事業者に対して排出削減を義務付けることになります。これまで省エネ法などがあったとはいえ、改正法は二酸化炭素の本格的な削減義務を求めることになるので、企業の気候変動対策はこれまでと異なるフェーズに入ったと言えるでしょう。

◎「「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました」(経済産業省)
⇒ https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250225001/20250225001.html

(2025年04月)

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