2026年8月20日、ISO14001:2026年版の日本国内における規格である「JIS Q 14001」が発行されました。
ISO認証を取得している企業の多くは、このJIS Q
14001の規定に沿って自社のマニュアルなどを整備しています。そのため、現在、多くの企業で2026年版への対応に向けた準備が始まりつつあります。
本コーナーでも今回の記事から、2026年版に自社のシステムを対応させるために、個々の規格改訂のポイントや、その背景にある考え方を紹介していきます。
また、昨今の社会情勢や他社の動向も踏まえながら、実務上、どのような対応が考えられるのかについても、筆者なりの考えを提示していきます。
ISO14001要求事項は箇条4から箇条10の中に記述
ISO14001を一冊の本に例えると、全10章で構成されていると考えることができます。本編とは別に、規格の理解を助ける手引きとして「附属書」も付いています。
ただし、ISO規格では一般に「章」という言葉は使わず、「箇条」という言葉を使います。例えば「第1章」は「箇条1」と表現します。
この10の箇条のうち、箇条4から箇条10までに、企業などの組織に対する要求事項が記述されています。一方、箇条1から箇条3までは、適用範囲や用語の定義などが記述されており、組織に対する直接的な要求事項は記述されていません。
したがって、企業の担当者は、箇条1から箇条3の記述の変化も踏まえながら、主に箇条4から箇条10までの要求事項がどのように変わったのかを読み込むことが重要になります。
以上を前提に、今号では、箇条4「組織の状況」の記述の変化を見ていきましょう。
重要な変更点は4.1と4.2
箇条4の中で、ISO14001を運用する一般的な企業にとって特に重要なのが、4.1と4.2です。
これらの要求事項は、2015年版で導入されました。4.1では、組織を取り巻く外部・内部の課題を整理すること、4.2では、利害関係者が何を求めているのかを整理することが求められています。
そして、別の箇条では、これらの課題や利害関係者の要求事項に関係する「リスク及び機会」を整理し、具体的なEMS活動へ展開することが求められています。該当する要求事項は、2015年版では6.1.1、2026年版では6.1.4です。
こうした4.1と4.2の主な改訂箇所は、次の図表の通りです。
箇条4「組織の状況」の主な改訂(下線部・赤字)
| ISO14001:2015年版
(2024年追補版を含む) |
ISO14001:2026年版 |
|---|---|
| 4.1 組織及びその状況の理解 組織は,組織の目的に関連し,かつ,その環境マネジメントシステムの意図した成果を達成する組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を決定しなければならない。 こうした課題には,組織から影響を受ける又は組織に影響を与える可能性がある環境状態を含めなければならない。 組織は、気候変動が関連する課題かどうかを決定しなければならない。※追補 |
4.1 組織及びその状況の理解 組織は,組織の目的に関連し,かつ,その環境マネジメントシステムの意図した成果を達成する組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を決定しなければならない。 これらの課題には,汚染レベル,天然資源の利用可能性,気候変動,生物多様性,生態系の健全性など,組織から影響を受ける又は組織に影響を与える可能性がある環境状態を含めなければならない (A.4.1参照)。 |
| 4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解 組織は,次の事項を決定しなければならない。
注記:関連する利害関係者は、気候変動に関する要求事項を持つ可能性がある。※追補 |
4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解 組織は,次の事項を決定しなければならない。
注記1 関連する利害関係者は,汚染レベル,天然資源の利用可能性,気候変動,生物多様性,生態系の健全性などの環境状態に関するニーズ及び期待をもつ可能性がある。 注記2 法的要求事項以外の,利害関係者の関連するニーズ及び期待は,組織がそれを順守することを決定したときに順守義務となる。 |
「生物多様性」と「生態系の健全性」に注目
4.1「組織及びその状況の理解」では、組織が外部及び内部の課題を整理することを求めています。また、4.2「利害関係者のニーズ及び期待」では、顧客、地域住民、行政、協力会社、従業員などの利害関係者から、どのようなことを求められているのかを整理することを求めています。
今回、こうした課題や利害関係者から求められている事項の例として、「汚染レベル、天然資源の利用可能性、気候変動、生物多様性、生態系の健全性」が具体的に示されました。
このうち「気候変動」については、2024年追補版ですでに示されています。また、「汚染レベル」と「天然資源の利用可能性」については、すでに多くの企業で、公害防止対策や資源循環対策としてEMS活動の中に取り込まれています。
そう考えると、今回、新たに検討すべき重要なテーマとして浮かび上がるのが、「生物多様性」と「生態系の健全性」です。
自社のシステムを2026年版に対応させる際には、これらに関連する課題が自社に存在しないか、また、利害関係者から何らかの要求や期待が寄せられていないかを改めて検討することが重要になります。
生物多様性への取組みをEMSにどう取り込むか
昨今、ESG投資やネイチャーポジティブ(自然再興)の動きが活発になる中、生物多様性の保全に向けた企業の取組みが注目されています。
環境省は、民間の取組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」に認定する施策を推進しています。多くの企業がこの制度に積極的に取り組んでいます。
現在(2026年6月末時点)、610か所、11.9万haの区域が自然共生サイトに認定されており、その半数は企業が申請したものとなっています。
全国の工場などを訪問する仕事をしている筆者の実感としては、こうした取組みの対象となる区域は、まだまだ拡大できるのではないかと思います。
例えば、自社の企業価値向上につながる取組みとして、外部・内部の課題の一つに「生物多様性保全の観点からの工場緑地の利用」を掲げることが考えられます。その「リスク及び機会」として「自然共生サイトとしての活用」を整理し、工場緑地の整備や認定申請につなげていく、といった展開も考えられるでしょう。
また、自社の本業を改めて見つめ直し、生物多様性に関する課題を探してみることも考えられます。
例えば、マイクロプラスチックが海へ流出し、プラスチックによる海洋汚染が問題となる中、化粧品会社が洗顔料などに使用していたマイクロプラスチックの素材を切り替えた事例はよく知られています。
このように、自社の製品やサービス、原材料、製造工程などを改めて見直すことで、生物多様性との関係や、環境面での新たな課題が見えてくる可能性があります。
今回の4.1、4.2の改訂は、単に規格の要求事項に対応するだけではなく、自社において生物多様性に関する新たな取組みができないかを見つめ直す機会にもなるのではないでしょうか。
なお、箇条4では、4.1、4.2に続いて、4.3「環境マネジメントシステムの適用範囲の決定」があります。ここでは、EMSの適用範囲を決定することが求められるとともに、その際に考慮すべき事項が列記されています。その考慮事項の一つとして、「ライフサイクル」の視点を持つことも求められています。ライフサイクルに関する要求事項は、ほかの箇条にも変更点があるため、このテーマについては後日、改めて詳しく紹介することにします。
(2026年10月)


